省人化の先は、店舗の「体験価値」で差別化を──小売&外食のデジタル戦略(3)

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省人化の先は、店舗の「体験価値」で差別化を──小売&外食のデジタル戦略(3)

Text : 堀部太一 / Editor : 佐々木将史

デジタル化が進んだ現代において、変化し続ける顧客のニーズとチャネル。だが、「どこから」「何に」手をつけていいのか分からない、という事業者も多いだろう。

この連載『小売&外食のデジタル戦略』では、飲食業や小売ビジネスの流通戦略に詳しい堀部太一氏に、店舗がデジタルシフトの一歩を踏み出すためのポイントについて寄稿して頂く。3回目となる今回は、業務をいかに省力化させるか、その上で「その店舗だからこそ」提供できる価値をどう生み出すかについて記してもらった。

株式会社タイムプロデュースリンク 代表取締役 堀部太一氏
関西学院大学卒業後、新卒で船井総合研究所に入社。当時最年少にてフード部のマネージャーへ。その後事業承継と起業を行い、京都にて外食・中食の高級業態を展開。「食を通じての豊かさの提供」をモットーに、自ら事業をしながら、多くの企業へのサポートも行う。(NewsPicsTwitter

サービス業が“サービス以外”で忙殺されないために

厚生労働省の進める「働き方改革」によって、企業の生産性向上に対する重要度が非常に高まってきました。実際にこの改革で、経営者が取り組まなければならない項目には、

・時間外労働の上限規制

・年次有給休暇の時季指定

・同一労働同一賃金

が挙げられており、非効率な業務のやり方では、それらを実現できない場合もあるからです。

しかし、今までの慣習もあって、何から着手をすれば良いかわからない。また、そもそものやり方がわからない。このような悩みも、特に中小企業の経営者から多く聞くようになりました。

厚生労働省「働き方改革特設サイト」より

働き方改革に取り組むために、大原則として考えるべきことは何なのでしょうか?

それはまず、「自分たちの“仕事のセンターピン”は何なのか」を明確にすることです。そして、「“センターピン以外の仕事”をいかに無くしていくか?」を考えていくことに尽きます。

チェーン展開を行うサービス業を例に上げましょう。お客様へのサービス力が高く、エース級に活躍していた人が管理職になって、本部への報告や分析に時間を取られるようになる。結果的に、店舗のサービス力が低下して、業績が下がる──そのようなケースが多々あります。

実際、管理職にとって「手間のかかる」バックオフィス業務には、次のようなものが挙げられます。

・受注管理/顧客管理

・売上管理/数値分析

・会計関連

・棚卸と発注

これらに必要以上の時間を掛けてしまうと、顧客サービス向上への貢献など、“仕事のセンターピン”を見失いがちになります。では、そうしたバックオフィス業務はどのように減らしていけば良いのでしょうか?

バックオフィスで「手間と感じるもの」の多くは、既に解決できる

サービス以外の業務に時間を取られ過ぎないためには、「この作業はそもそも何のためにやっているのか?」という一歩引いた視点と、業務の引き算がより大切になってきます。

一つひとつ、具体的に見ていきましょう。

 受注管理/顧客管理

受注は全て紙での記載。また、常連様の把握はベテランの方がそれぞれ頭の中で把握し、店として管理できていない──。老舗店などでは、そのような店舗が今も多くあります。

ですが、例えば第2回の連載にて紹介した「TORETA」といった予約/顧客台帳サービスを導入すれば、電話が入った段階で「新規かリピーターか?」を確認できます。さらに、過去の来店履歴と注文内容も把握できるので、より一人ひとりのお客様にカスタマイズした対応が可能になります。

下記画像は、高級業態を展開する私の支援先のTORETA管理画面です。

ここでは予約が入る度に、顧客ランクと前回の提供内容から「今回はどのような接客を実現させるか?」のミーティングを行うことで、高いリピート率を実現されています。

売上管理/数値分析

従来の設置型POSでは、売上に関する業務は店舗に行かなければ管理や分析ができない。この点に悩みを持たれている企業も、まだまだ多くいらっしゃいます。

しかし、クラウド型のPOS(「スマレジ」 「Airレジ」「Uレジ」など)にすることで、いつでもどこでもリアルタイムの売上を把握できます。また、前述の顧客管理と連動させることで、よりお客様の趣味嗜好を理解できるようにもなります。これだけで売上管理、数値分析の手間は一気に減らせます。

下記画像は、居酒屋業態を展開される支援先の管理画面(スマレジ)です。左側にある「売上分析」の通り、検討したい仮説は細かい部分まで即座に分析できるので、意思決定も素早くなります。

なお、こうしたクラウド型のPOSは、従来の設置型POSほどの投資も必要ありません。初期費用0円から始められる場合もあるので、積極的に検討してみるといいでしょう。

会計関連

全て手書きで毎日書き込みを行い、仕入れや売上の増加と共に忙殺される。アナログ会計であればこのような問題に陥りがちですが、クラウド型の会計ソフト(「MFクラウド」や「freee」など)であれば、簡単に仕訳処理をすることが可能です。クレジット払いであれば、自動登録させることもできます。

MFクラウドの会計処理画面

また、請求書に関しても一通ごとに出力、封入、郵送、入金確認と手間がかかるものを、メール送信と入金の自動連携機能を用いることで、作業を大幅に減らせます。

ある和食業態を展開される支援先では、年商4億円の一昨年には経理スタッフが4名いらっしゃったのが、今期は年商6億円への成長を実現されながら、スタッフ1.5名(1名が専任、1名がヘルプ要因)まで生産性を上げられました。

棚卸と発注

この分野は、現時点では簡素化するための、導入しやすいサービスがありません。しかし、今後はIoT搭載の厨房機器も増えてくるので、棚卸の自動計算から自動発注まで実現できるようになるでしょう。

先日、開発中のサービスをテストで活用させてもらいましたが、人手による棚卸をせずとも1時間ごとに非常に正確な在庫管理ができました。棚卸と発注の手間は今まで非常に重たい部分でしたが、それがいよいよ解決できる環境になってきています。

「店舗ならでは」の差別化をどこで実現するか

上述の通り、バックオフィスで手間だったものを大幅に改善して、生産性を上げられるようになってきました。つまり、“仕事のセンターピン”に時間やコストを掛けられるようになっているのです。

次は「その店舗ならではの価値を出せる分野」、ここに注力できるかどうかが大きな差別化に繋がります。その差別化に関しては、二通りの戦い方が出てきました。

劇場型店舗で“コト消費”を訴求

顧客が過ごす時間を“非日常空間”にする。そして体験価値を分かち、“コト消費”を狙うような考え方です。飲食店の例を挙げると、職人による「調理技法の見える化」と「五感に訴える店舗レイアウト作り」があります。

近年は「脱職人」といった風潮が強かったのですが、体験価値を高めるために、改めて職人性を押し出すことも増えてきました(もちろん、前述のようにバックオフィスを省人化し、かつ職人技法に関しても定量化していく前提です)。

職人性への訴求を強く感じてもらうため、店舗レイアウトとしても厨房が店舗の中心にあり、それを囲うようにロの字やコの字で顧客が並ぶようなスタイルです。職人の動きを見て、料理ができる過程までを五感に訴え楽しんでもらうことができます。

味での戦いだけではなく、体験価値の最大化を狙う戦い方といえます。

一方、小売店の例を挙げると、売り場を「売る場所」ではなく「楽しんでもらう場所」と考える発想があります。

今までは実店舗とECをある種、二項対立で考える風潮がありました。事業者側にとっては在庫の奪い合いの問題などがあるのですが、顧客にとっては購買という点での区別はありません。「何とか実店舗で売ろう」もしくは「ECで売ろう」という考えではなく、トータルでの体験価値を高めて、購買率を上げていく考え方が必要です。

それを実現していく上で、「リアルに店舗を持っていること」は強みになります。まずは人を集め、そこで体験して、楽しさやその製品を使うことによるメリットを感じてもらえるからです。そのまま実店舗で購買が完了しても良いですし、利便性を考えてECで購買を完了してもらっても良い。

いずれにせよ、会員登録に連動させてLTV(Life Time Value)を最大化させていく戦い方です。外食・小売共に、リアル店舗だからこそ非日常を演出し、人が接客、演出するからこその体験価値を重視する方法が増えてきました。

さらなる省人化によって収益構造を変える

どのような業界でも、モデルのP/L(損益計算書)が存在すると思いますが、これ自体を見直していく方法もあります。

外食企業の場合だと、食材原価と人件費がコストの大部分を締めるので、FL(Food Labor)コストは「売上比60%が適正値」という目安があります。業態によって若干の違いがありますが、食材原価率35%と人件費率25%でFL60%、といったイメージです。

しかし、さらなる省人化を実現できれば、「この人件費率が本当に適正なのか?」このような議論が可能です。昨年話題になったアリババグループ(阿里巴巴集団)のロボットレストラン「Robot.He」では、人件費が従来の業態よりもかからない分、食材にコストをかけられる仕組みを作っています。

現状ではロボットの導入コストもランニングコストも非常に高いので、テクノロジー企業の一部店舗でしか活用できない背景はあります。しかし、量産されて中小企業でも実用的になれば、今までの収益構造をガラッと変えられるようになるでしょう。

このように、人に依存しない分、業態の専門性を高め、他との差別化を行う戦い方も出てきています。

ただし、大事なのは時流に適応しつつ、長所伸展でどのように戦っていくかです。まずは第一ステップでバックオフィスの効率化を進め、第二ステップとして持続して成長できる業態モデルに転換していく。

店舗の生産性を高めるために、この辺りはしっかりと今から準備していきたい部分です。