デジタル化が進んだ現代において、変化し続ける顧客のニーズとチャネル。だが、「どこから」「何に」手をつけていいのか分からない、という事業者も多いだろう。
この連載では、飲食業や小売ビジネスの流通戦略に詳しい堀部太一氏に、店舗がデジタルシフトの一歩を踏み出すためのポイントについて寄稿していただく。第1回はまず、EC化の基本となる「ネット予約」の基本を記してもらった。
株式会社タイムプロデュースリンク 代表取締役 堀部太一氏
関西学院大学卒業後、新卒で船井総合研究所に入社。当時最年少にてフード部のマネージャーへ。その後事業承継と起業を行い、京都にて外食・中食の高級業態を展開。「食を通じての豊かさの提供」をモットーに、自ら事業をしながら、多くの企業へのサポートも行う。(NewsPics/Twitter)
飲食店も「ネット予約」が主流になった時代
飲食業界では現在、急速にEC化に向けた流れが加速しています。その一つとして、今回は飲食店の中で「予約型業態」をとっている店舗の施策を見ていきたいと思います。
この予約型業態ですが、「ネット予約」の台頭によって、顧客の流入経路が大きく変わってきました。実際に飲食店の予約手段として、ネット予約が既に半数を超えると言う調査もあります。
ネット予約は、厳密には完全なる電子商取引ではないのですが、集客におけるデータ分析の精度が大きく変わってきているため、着目に値すると考えています。

飲食店の予約手段に関する調査(参照:株式会社TableCheck)
「ちょっと苦手だから…」という経営者さんもまだまだ多い状況です。ただ、上記にある背景はもちろん、ネット予約を解放した方が電話対応ができない時間にも予約の取りこぼしを防ぐことができるため、より積極的に対応をしていきたいところです。
さて、ネット予約が増えるということは、お客様の体感としてはネットショッピングと変わりはありません。そうなると、「ネット予約で得たデータをどう活かして顧客対応力を高めるか?」というのが大切になってきます。
来店前のデジタル接客をどうするか?
例えば、予約型の中でも高級業態や大型宴会業態になると、予約が行われる日と実際の来店日がより開く傾向にあります。にもかかわらず、多くの店が「何となくネット予約が入ったまま」で、特に何のフォローを行わない状況になっています。
しかし以前、私が支援する複数の店舗にて一斉アンケート調査をしてみたところ、「正確にネット予約が完了しているかが不安だ」という声が、利用者から一定数あることがわかりました。不安を放っておくと不満に変わりやすいことを考えると、「予約日」から「来店日」までのステップメール対応が、店舗にとっては差別化になります。
この辺り、ネットショッピングとしては非常に当たり前のことだと思います。ですが実行している飲食店が少ないからこそ、より印象に残すアプローチが可能になります。一例にはなりますが、下記のようなイメージです。
① 予約時:店舗責任者からの挨拶メール
② 1週間前:リマインドと自社の品質訴求
③ 前日:最終確認
④ 翌日:店舗責任者からの満足のお伺い連絡
⑤ 以降:メルマガの名簿へ
ネット予約ユーザーは基本的に、次回以降もネット予約に繋がる傾向にあります。そうなると「いかに定期的に情報発信を行うメルマガの名簿数を得られるか?」も、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の最大化では大切になってきます。
そこで、年商を算出する方法として、下記の式を考えたいと思います。
年商=有効顧客数×年間平均来店回数×組単価
この式をLTVの最大化と共に見ると、どのようになるでしょうか?
固定化に繋げるアフターフォロー
飲食店では「当日接客」を意識しても、上述の「来店前接客」や「アフターフォロー」を強化しない店が大半です。
しかし、上記式の「有効顧客数」「年間平均来店回数」を最大化するには、「アフターフォロー」がより活きてきます。その内容を見ていこうと思います。
① 離脱防止のアフターフォロー
新規集客をどんどん行うのも良いですが、人口減(胃袋減)ならば顧客の離脱防止が重要になります。離脱の基準は業態によって「最終来店日から○○日」と設定することが多いのですが、どのように離脱防止を行えば良いのでしょうか?
一つが、来店頻度に合わせた「アフターフォロー」です。飲食店では、仮に常連様であっても気づけばいなくなっている、といったシーンが多く見られます。これって非常に勿体無いですし、運営としても切ないですよね?
それを防ぐには、お客様の平均来店頻度を把握しておき、その頻度から一定ラインを超えるとアフターフォローを行うのが効果的です。
例えば、私のある支援先では、平均来店頻度から3倍の期間がたったお客様にフォローを行うことによって、リピート売上を大きく向上させた企業があります。
例)平均1ヶ月に1回→3ヶ月来店がないとフォロー
離脱してからの引き戻しよりも、そもそも離脱を未然に防ぐ方が費用も抑えられる傾向にあるので、「気づけば常連様がいなくなっている」というのを防ぎたいところです。
②閑散期を底上げするイベント作り
飲食店は繁忙期と閑散期があるものです。どうしても閑散期に頑張りたくなるのですが、そもそも「ニーズがあるから繁忙期」「ニーズがないから閑散期」ですので、閑散期になってから焦っても成果は出にくいといえます。
では、どうすれば良いか?基本的には繁忙期に異常値を出すくらい伸ばし、そこで顧客情報を集めておく必要があります。そしてその情報を閑散期に活かします。
閑散期を支えてくれるのは新規顧客ではなく既存顧客になるため、この既存顧客向けのイベントが閑散期の底上げにもなりますし、上述の式でいう年間来店回数の最大化にも繋がりやすくなります。支援先の中では、食育イベントや体験イベント、感謝祭などロイヤリティを高める取り組みを、敢えて閑散期に行うようになっています。
補足になりますが、その時のイベントのニーズも下記の掛け算にて把握することができます。
集客=名簿数×開封率×クリック率×来店率
まず、そもそもの名簿数が少なければどれだけ良いイベントだとしても、リーチ数が少なく認知ができなくなります。ネット予約の開放などによって、名簿数を増やしていく必要があります。
また、案内メールがお客様にとって価値があるもの、もしくは興味を引くものでなければ、そもそも開封されずに削除されてしまいます。イベント名がお客様に刺さるものかどうかは、開封率で確認します。さらに、文章にて興味を引けているか、より詳細を伝える構成になっているかを、LP(ランディングページ)へのクリック率で見ます。
最後に来店率です。ここが高ければイベントに価値があるということなので、LPへの流入最大化を狙えば良いですし、低ければイベント自体の見直しが必要になります。
ネット予約からのデータ活用を
繰り返しになりますが、
年商=有効顧客数×年間平均来店回数×組単価
が基本式となります。その中で、
・有効顧客数を増やす(減らさない)
・年間平均来店回数を増やす
この2点で年商を上げていくには、「アフターフォロー」が効果的です。
今までは店舗会員やアプリを作って顧客データを知る必要がありましたが、ネット予約のプラットフォームが普及することによって、店舗それぞれがお客様へリーチしやすくなりました。
もちろんエンゲージメントを下げるアフターフォローを行うと関係性を悪くしてしまうので、全体設計を意識する必要はあります。ですが、「どのように顧客と良い関係性を構築し続けるか?」の視点でも、ネット予約からのデータ活用はまだまだ伸び代があります。
EC化の第一歩としてぜひ、ここを今からでも強化していってもらえればと思います。