32億円の赤字から1年でV字回復。幸楽苑の成功方程式

series

32億円の赤字から1年でV字回復。幸楽苑の成功方程式

Text : 結木 千尋 / Editor : 佐々木将史

全国に約500店舗を構える一大飲食チェーン、株式会社幸楽苑。290円の「中華そば」で記憶している人も多いのではないだろうか。

2011年、東日本大震災の影響で一時は100店舗を休業した際も、黒字経営を守った同社。だがそれ以降、売上の伸びは鈍化し、利益もこの数年で急激に減少。2018年3月期の決算では、ついに32億円の赤字を計上した

その幸楽苑が2018年秋以降、大幅な回復を見せている。

同社ホームページの「月次売上推移速報」によれば、全直営店の売上は8月から7か月連続、既存店売上も10月以降5か月連続で前年超え。連結業績も、次期決算では純利益9億円以上となる見通しだ。

一体どのようにして幸楽苑は再生を果たしたのか。データと取り組みから、幸楽苑の成功方程式を紐解く。

幸楽苑の転落と再生

まずは、幸楽苑がどのような企業なのか振り返っておこう。

福島県郡山市に本部を置く同社の創業は、1954年まで遡る。現在の代表取締役社長・新井田昇氏の祖父が、会津若松市に「味よし食堂」という名称で店舗を開いたのが始まりだ。

1967年に現在の「幸楽苑」へと名を変えた同社は、1997年に株式会社幸楽苑ホールディングス(幸楽苑の親会社)として株式を公開。2003年には、東証一部への上場も果たしている。

しかし、創業以来ずっと順風満帆な経営だったわけではなく、苦難と呼べる時代がいくつもあった。

特に苦しんだのが、2013年以降だ。背景にあったのは、競争激化による既存店売上の落ち込みと原材料の値上げである。

低価格路線を打ち出す幸楽苑にとって、材料費高騰の影響は大きかった。競合チェーンもこのタイミングで商品価格改定に乗り出しており、幸楽苑は不採算店舗の閉店やメニューへのテコ入れを迫られることとなった。

2015年5月、ついに看板メニューだった290円(税別、以下同)の中華そばの販売を終了し、520円の新商品「醤油らーめん司」を投入。だが、既存店の苦戦は続く。2016年9月に発覚した異物混入事件も向かい風となり、前述の赤字転落へと至った。

それから1年で、幸楽苑の業績はV字回復しているという。その再生を示すデータが出ている。

フードビジネス総合研究所が発表した「外食産業主要25ブランド(社)の既存店売上高(前年同月比)情報」だ。各ブランドの売上高・客数・客単価が、前年対比で表してある。

興味深いのが、売上高を伸ばしているブランドの多くは、客単価ではなく客数を伸ばしていることだ。一方で、客単価が伸びたものの客数が減ってしまったブランドは、売上高にも結びついていない場合がほとんどである。

幸楽苑ホールディングスの2019年2月の数字は、客数が前年同月比で112.5%。客単価は98.8%で落ちているにもかかわらず、客数に引っ張られて売上高も11.1%の伸びを記録した。

幸楽苑再生の秘密は「顧客の再獲得」にあるのではないか。その視点で、同社が復活の1年で打ち出してきた戦略を見ていこう。

幸楽苑が打ち出した経営戦略

飲食店のベースとなる“質”への探求

不景気の時代を“価格による訴求”で渡ってきた幸楽苑にとって、290円中華そばの販売終了は大きな転換点だった。

当時、代わりに投入されたメニューの価格は520円。だが、価格差に見合う期待が消費者に伝わらず、不振に拍車をかける結果となった。

このことから幸楽苑は抜本的な改革へと乗り出し、看板メニューのブラッシュアップを図る。「あっさり中華そば」は、スープの刷新とチャーシューの増量を施した「極上中華そば」へ、「ギョーザ」は肉の量を増やして「餃子『極』」へと生まれ変わった。

ヒット商品となった極上中華そば

顧客のリピート率向上には、“信頼できる”看板メニューが欠かせない。2018年4月に投入されたこれらのメニューは見事にヒットし、今や幸楽苑を支える存在になっている。

不採算店舗の閉鎖と店舗設計改革

内部における取り組みにも着目したい。

不振にあえぎ始めた2013年以降、継続して取り組んできた経営戦略が「不採算店舗の閉鎖」だ。2017年9月に通期の赤字が判明した直後も、全体の1割弱にあたる52店舗の閉鎖を決めた。しかし、それだけでは既存店の売上高は好転しない。

次なる改革として、白羽の矢が立ったのが「店舗スタイルの変更」だ。

幸楽苑はこれまで、地方の「ロードサイド店舗」を中心に出店を進めてきた背景がある。幹線道路の沿線に建つ、大型駐車場などを備えた店舗のことだ。

拡大期にはこの店舗形態で成功をおさめてきた幸楽苑だったが、地方の人口減少や大型ショッピングセンターの台頭により、苦戦を強いられる場面が増えてきた。また、この種の店舗には家族での利用を視野に多くのテーブル席を導入しているが、少人数での利用によって“死に席”が生まれるという、構造的な問題も経営の足を引っ張っていた。

そこで幸楽苑は、従来より客席が4割少ない「コンパクト型」の店舗フォーマットを開発、客席の無駄を大幅に解消させた。時代に合わせた店舗設計で、経営改革へとつなげていったと言えるだろう。

「いきなり!ステーキ」への転換がもたらしたもの

幸楽苑は2017年、株式会社ペッパーフードサービスとフランチャイズ契約も結んでいる。幸楽苑がフランチャイジーとなり、「いきなり!ステーキ」を展開できるという契約だ。同年11月に、1号店として「福島太平寺店」をオープンさせている。

これが奏功し、不採算店舗を転換した16店は売上高と営業損益が改善。2019年3月決算では黒字化が見込めるという。

実はこの転換が与える影響は、当該店舗だけにとどまらない。自社競合店舗がなくなったことで、近隣の「幸楽苑」も客数が改善したのだ。人的リソースにも余裕が生まれ、サービスの向上へとつながった側面も見逃せない。

同社は、並行して就労コントロールにも取り組んでいる。2018年6月には、210店舗の営業時間を2時間短縮すると発表、全店舗の約8割が深夜24時までに閉店する運びとなった。さらに、2018年大晦日は15時閉店、2019年元日は「創業以来初」となる休業を打ち出すなど、働き方改革を進める。

異物混入という不祥事の影響もあり、客離れが深刻化した幸楽苑。サービスの向上は顧客のイメージ回復に直結する。社員のモチベーション管理が顧客満足へとつながり、リピート数の改善をもたらしたのではないだろうか。

新規顧客の獲得につながるメディア戦略

新たな顧客獲得のための取り組みも無視できないだろう。幸楽苑が掲げてきたメディア戦略について触れておきたい。

幸楽苑が運営するオウンドメディア「KOURAKUEN life

「KOURAKUEN life」は、幸楽苑が運営するライフスタイルWEBマガジンだ。ここにはラーメンにリンクする様々な情報が読み物として掲載されている。用語事典やトッピングのノウハウ、健康との関わり、ラーメンにまつわるコミュニケーションなど、記事のバリエーションは幅広い。

ここ数年、企業がこのようなWEBメディアを運用するケースが増えてきた。しかし、外食産業の大手が本格的な運用に乗り出している例はそれほど多くない。

オウンドメディア戦略のメリットは、見込み顧客との接点の獲得にある。何かのきっかけでサイトを訪れたユーザーに、まずはラーメンの魅力に触れてもらう。そのなかで、ページ内に表示された自社商品のPR記事を読むこともあれば、サイト閲覧をきっかけにして店舗を利用するパターンもあるだろう。

2019年2月1日〜14日の限定商品「チョコレートらーめん

SNSでの拡散を狙う企画系メニューも話題を集める。バレンタイン期間限定で販売された「チョコレートらーめん」は、「チョコレート×醤油」の異色の組み合わせが目を引く変わり種ラーメンだ。

こういったメニューは顧客の興味をそそる一方で、諸刃の剣となりやすい。味が担保されていなければ、全体の評判を貶める結果につながりかねないためだ。企画力と味の共存が重要となる取り組みは、企業努力の試金石とも言える。

今回はネット上の評判も上々。見た目のインパクトを良い意味で裏切る味が、SNSなど多方面で話題を呼んだ。

企画力を入り口に新規顧客を獲得し、店舗への信頼を得る。これも幸楽苑が打ち出すメディア戦略と捉えられるのではないだろうか。

顧客目線による取り組みが幸楽苑再生のカギ

一大ラーメンチェーンでありながら、1年前に32億円の赤字を計上した幸楽苑。短い期間で再生を果たした背景を掘り下げてきた。

継続的に取り組んできた内部の改革が、黒字化に与えた影響は少なくない。しかし、本当の意味で幸楽苑の再生を支えているのは、あらためて徹底した顧客目線での取り組みだと考える。

顧客との大切な接点である味への探求、店舗改革によるサービスの向上、幸楽苑が行う取り組みの言語化とメディア戦略。これらすべての要素が結実し、1年での再生へとつながったに違いない。

幸楽苑のV字回復はどこまで続くのか。その行方は、同社がこれからも時流を読み、顧客目線であり続けられるかにかかっている。

ユウキチヒロ。フリーランスライター。 1985年生まれ、名古屋在住。30歳のとき、ライターを志し、現在に至る。 関心事はサブカルチャー。これまでにブロックチェーンやビジネスノウハウなどのジャンルで記事を執筆。SEOライティングにも実績がある。

結木 千尋

この記事の連載はこちら

連載の記事