飲食トレンド最注目の「ゴーストレストラン」をプロが解説──小売&外食のデジタル戦略(4)

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飲食トレンド最注目の「ゴーストレストラン」をプロが解説──小売&外食のデジタル戦略(4)

Text : 堀部太一 / Editor : 佐々木将史

デジタル化が進んだ現代において、変化し続ける顧客のニーズとチャネル。だが、「どこから」「何に」手をつけて対応すればいいか分からない、という事業者も多いだろう。

この連載『小売&外食のデジタル戦略』では、飲食業や小売ビジネスの流通戦略に詳しい堀部太一氏に、店舗がデジタルシフトの一歩を踏み出すためのポイントについて寄稿して頂く。4回目となる今回は、近年注目を集める「ゴーストレストラン」の仕組みと、それが増えつつある背景を記してもらった。

株式会社タイムプロデュースリンク 代表取締役 堀部太一氏
関西学院大学卒業後、新卒で船井総合研究所に入社。当時最年少にてグループマネージャーへ。その後事業承継と起業を行い、京都にて外食・中食の高級業態を展開。「食を通じての豊かさの提供」をモットーに、自ら事業をしながら、多くの企業へのサポートも行う。(NewsPicsTwitter

ゴーストレストランは“実店舗のない”デリバリー飲食業態

ゴーストレストランとは、実店舗を持つことなくオンラインのみで注文を受け、デリバリーを行う飲食業態です。飲食店の新しい事業の形として、アメリカで「Leafage」を運営するGreen Summit GroupやインドのREBEL FOODS、国内でも株式会社デリズなどが登場し、話題を集めています。

日本にも昔から「出前業」は存在していました。しかし、蕎麦屋やうどん店、寿司屋など既存の飲食店舗において、あくまで業態付加としての対応がメインでした。

いま注目のゴーストレストランは、実店舗を前提とせず、なおかつ配送を委託する点が、従来の出前業と異なります。その背景には、「初期の設備投資を少なく、かつ月々のランニングコスト(特に、立地の良さと比例する家賃支出)を抑えて、飲食店をスモールスタートさせたい」という事業主のニーズがあるのです。

また、近年展開が加速した理由には、「Uber Eats」「楽天デリバリープレミアム」などのデリバリーサービスのプラットフォームが普及するのに伴い、市場の流通総額が増してきたことも挙げられます。

ゴーストレストランビジネスの場合、業務は下記の3ステップに分けることができますが主な業務となります。

1:受注する
2:製造する
3:配送する

従来であれば、2の製造(商品)にこだわりのある事業主が飲食店を持ちたくても、マーケティングが苦手で1の受注をそもそもどうすれば良いかわからない。あるいは、3のデリバリーも配送員の採用が難しく、相応の規模がないとコスト的にも合わない。そのような理由で、自社で出前を中心とした業態への展開にはハードルがありました。

しかし、上述のようなプラットフォーマーの台頭によって、受注と配送を委託できるようになり、製造だけに集中できる環境になってきました。この結果、参入障壁が一気に下がり、実店舗を持たない飲食事業を展開する企業が増えたのです。

ゴーストレストランの特徴は「変動費率の高い収益モデル」

初期投資と月々のランニングコストを抑えやすいゴーストレストランですが、始めるにあたっては、まずは1ブランドの月商で150万円〜200万円ほどを狙うことを、目安の一つにすることができます。仮に1ブランドで月に200万円売り上げた場合、その一般的な収益モデルは下記のようになります。

(※減価償却除く)

前項にて、受注と配送を委託できることが、参入障壁を下げる要因と書きました。しかし、プラットフォーム各社への手数料は平均すると35%ほどになってきますので、売上構成比率で見ると大きなウェートを占めています。

それでも収益を確保できる要因としては、家賃の低さです。ゴーストレストランであれば、三等立地、かつ自社で配送する必要もないためビルインで成り立たせることができるのが、魅力の一つといえます。坪家賃0.8万円(×10坪=家賃8万円)の物件でも、坪月商20〜50万(×10坪=売上200〜500万円)くらいの製造キャパシティを確保できるでしょう。

そうした家賃の安さに加えて、正社員1名とアルバイト(あるいは社員ゼロでも可能)で成り立つために人件費も抑えられ、固定費で見ても月々の負担やリスクが低くなるのです。

ただし、変動費(売上の増減に比例して変動する費用)の割合が高いので、売上のトップラインをとことん高めなければ、最終的な「営業利益額」を伸ばせません。この点は逆に、ゴーストレストラン単体のみで展開するリスクとなります。

ゴーストレストランのメリット・デメリット

ゴーストレストランの運営において、収益モデルから「売上をいかに最大化するか?」を考える重要性が見えてきたと思います。しかし、プラットフォーマーのサービス内で展開する以上、1ブランドのみでの戦いとしては難しさもあります。よほど認知率が高く、かつ高リピート率を実現しない限り、売上はどこかで伸び悩むことになるでしょう。

そこで、ゴーストレストランだからこそ取れる手法に挙げられるのが「一拠点多ブランド展開」です。プラットフォームの中での戦いには、品揃えをたくさん持って、ブランド単体で総合的に挑む必要はありません。

1つの総合店で展開するより、1ブランドの品数が5種ほどと少なかったとしても、専門店を多く構えて、顧客の“購買のきっかけ”を多く作る方が大切になってきます。例えば、唐揚げ、チャーハン、ラーメン、カレー、カツ丼、ローストビーフ…といった専門店を複合的に運営するイメージです。


この手法を取れば、ブランドとしてのトータルのアイテム数を少なく、かつ食材もある程度は横展開できるので在庫管理もそれほど困難になりません。1ブランドの売上は低かったとしても、複数ブランドで売上のトップラインを高めていきつつ、全体の営業利益額を確保していくことが可能になるのです。

ゴーストレストランのメリットは、このように非常に少ないリスクで、「何が売れるのか?」のテスト販売をしやすくなった点にあります。また、利用者にとっても、“専門店ならでは”の独自性のある料理が食べられるという部分で魅力であり、それが結果的に購買頻度を高めて、デリバリー市場全体の流通量を伸ばす一つの引き金にもなっています。

反面にデメリットとしては、指名検索を増やして1ブランドのファンを獲得するのが難しい点が挙げられます。これはゴーストレストランに限らずECでもよくあることですが、利用者としては「お店で買った」という認識ではなく、「プラットフォームから買った」と考える層が一定数存在します。

そのため、自社ブランドでの展開であれば通常、初回から2回目への平均リピート率が30%ほどになってくるのですが、プラットフォーム経由では基本的には下回る結果になってきます。さらに、顧客データをプラットフォームに握られており、CRMをやりきれないことで「リピート売上」というベースアップに繋げづらい部分があります。

「キッチンのシェアリング」も普及を後押し

とはいえ、今後さらにゴーストレストランの出店は加速していくでしょう。その要因の一つとしては、キッチンのシェアリングサービスが徐々に増えてきていることが挙げられます。

国内であれば、「出前館」を運営する夢の街創造委員会株式会社の「インキュベーションキッチンプロジェクト」や、6月18日にオープンしたばかりの「Kitchen BASE」。海外であれば、元UberのCEOであるトラヴィス・カラニック氏も参画する「CloudKitchens」などが話題になっています。

「Kitchen BASE」公式サイト

従来のゴーストレストランでは、キッチンの確保は自ら行う必要があったため、月々のランニングコストが低いとはいえ、初期にはハード面で一定の投資額は必要でした。

しかしながら、上記のようなサービスを利用すれば、キッチン自体への初期投資すらかけずに展開できます。月々の支払いは自社でキッチンを用意するよりも若干高くなりますが、それでも、これまで以上にゴーストレストランの参入障壁を下げるきっかけになると考えられます。

新しい業態を、まずはちょっと試したい。資金は少ないが開業してみたい──。前提としては「スモールスタート」が原則ですが、外部環境としても、ゴーストレストランが増えやすい状況になってきているのです。面白い専門業態が登場することで、プラットフォームがさらに「顧客の獲得」や「利用頻度の最大化」に繋げやすい場となり、市場そのものも今後ますます拡大していくでしょう。

避けられない“プラットフォーマーとの戦い”

最後に、市場規模が拡大していった先についても、少しだけ展望を述べておきます。ゴーストレストランが普及すると、次に予測される流れは「脱プラットフォーム」の検討です。

収益モデルからは、月々の変動費率の高さが見て取れました。その中で売上のトップラインが大きくなってくると、より高い営業利益率を実現したくなります。事業の安定感をより出していくためにも、自社でのCRM強化に取り組み始めるでしょう(CRMについては、連載の第2回をご参照ください)。

そうなると、何が起こるか。プラットフォームでの展開は行いつつ、ブランドが強い業態から順に、自社で独自に販売(受注・配送)を行う流れが出てくると考えられます。実際に国内では検討中の企業も耳にするので、今後は動きが加速していくことでしょう。

その中で命運を分けるのは、指名検索されて高いリピート率を実現できるブランド力と、それを成り立たせる配送網を自社で構築できるかどうかです。この辺りも、ゴーストレストランの今後の展開としてぜひ注目してみてください。