“専門店時代”のビジネスモデル構築。利益と集客のバランスを探る──小売&外食のデジタル戦略(6)

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“専門店時代”のビジネスモデル構築。利益と集客のバランスを探る──小売&外食のデジタル戦略(6)

Text : 堀部太一 / Editor : 佐々木将史

デジタル化が進んだ現代において、変化し続ける顧客のニーズとチャネル。だが、「どこから」「何に」手をつけて対応すればいいか分からない、という事業者も多いだろう。

この連載『小売&外食のデジタル戦略』では、飲食業や小売ビジネスの流通戦略に詳しい堀部太一氏に、店舗がデジタルシフトの一歩を踏み出すためのポイントについて寄稿して頂く。「ゴーストレストラン」「サブスクリプション」に続き、今回は「専門店化」の流れにフォーカス。変化の背景とその成立要件を、具体的な数値を交え解説してもらった。

株式会社タイムプロデュースリンク 代表取締役 堀部太一氏
関西学院大学卒業後、新卒で船井総合研究所に入社。当時最年少にてグループマネージャーへ。その後事業承継と起業を行い、京都にて外食・中食の高級業態を展開。「食を通じての豊かさの提供」をモットーに、自ら事業をしながら、多くの企業へのサポートも行う。(NewsPicsTwitter

なぜ今、専門店が増えているのか?

小売・飲食の業界では近年、「総合店型」の業態での衰退が続いています。例えば百貨店で見ると、主要78社の2018年の売上は5兆9,865億円(東京商工リサーチ調べ)で、2年間で2,000億円の減収。直近の決算で、およそ3割が赤字とされています。

一方で目立つのが、北欧家具、クラフトビールや高級食パンなど、様々な「専門店型」業態の活躍です。なぜ今、このような専門店が増えているのでしょうか。

背景にあるのは、市場の成熟・安定化です。どのような業態や製品でも、その市場全体のライフサイクルに大きく4つのステージ(導入期、成長期、成熟期、安定期)があります。

1. 導入期

業態や製品がユーザーに全く認知されていないフェーズです。ユーザーからすると「自分にとって何の利益があるか」が見えづらいため、メディアリリースなどで認知度を高めつつ、ユーザーにとってのメリットを啓蒙していくのが大切な時期になります。

このタイミングは、単純な販売強化のための広告宣伝だけでは失敗する可能性も高く、トップランナーとして参入した場合、どうしてもコストがかさむ傾向にあります。

2. 成長期

事業をやっていて一番楽しいのは、この成長期でしょう。ユーザーに対する認知度も高まり、市場自体が伸びているので業績の上がりやすいフェーズです。

しかし、ここで競合環境も激化し、資本力のある企業が販促を強化してきます。見た目の業績以上に、数年後を見越して「いかに素早くシェアを確保できるか」が問われる、シビアな時期でもあります。

3. 成熟期

様々な製品やサービスが登場し、ユーザーも購買の経験値が高まる時期です。比較検討される中で、「商品力」「価格力」「接客力」という基本要素で劣る企業の淘汰が始まります。

また、成長期に競合が増えたことで、一気に標準化が進みます。成長の鈍化する市場において、標準化に巻き込まれないようにするのも、非常に大切なポイントになります。

4. 安定期

日本の多くの小売・外食市場が入っているのが、この安定期のフェーズです。淘汰もある程度完了し、かつ市場自体も横ばい、または減少気味になります。

安定期から事業を成長させる2つのポイント

安定期以降にさらなる成長曲線を描けるか、もしくはそのまま落ちてしまうかのターニングポイントとして、戦略的に重要になってくるのが下記2点です。

1. CRM強化

すでに顧客数が急に増大する市場ではなくなっているため、リピート対策を行い、離脱の防止と利用頻度の最大化を狙う必要があります。

(参考:『いますぐ飲食店が取り組める「CRM対策」の基本──小売&外食のデジタル戦略(2)』)

2. 領域特化

成熟期を経てユーザーの経験値が高まっているからこそ、特定の事業領域で内容を尖らせ、「こんなものがあったんだ!」というユーザーへの驚きと話題性を届けていくことが大切になります。つまり、“専門店”化するのです。

これにより、管理すべきアイテムが少なく、また店舗オペレーションも楽になるため、さらに商品クオリティへ投資しやすくなります。

ただし、大手ブランドのスケール戦略次第では一過性で終わることもあり得るので、気をつけておく必要はあるでしょう。

専門店に必要な「商圏人口」の考え方

専門店増加の一般的な背景を見てきましたが、どのような立地でも成り立つわけではありません。地方で東京のモデルをそのまま導入し、早々に撤退へと追いやられる企業も少なくないのです。

なぜ、地方で専門店を開くとうまくいかないケースが多いのでしょうか?その理由を2つの式から見ることができます。

売上=客数×客単価

客数=有効顧客数×年間平均来店回数

売上の増大を狙うには、客単価を上げるか、有効顧客(再来店の可能性がある顧客)を増やして、その年間平均来店回数を最大化する必要があります。しかし、この来店回数が、専門店の弱点の一つなのです。専門店は商品やサービスを絞り込んでいる分、なかなか「馴染み」になりづらく、総合型の店よりも一人あたりの来店頻度が下がる傾向にあります。

そのため、有効顧客数を伸ばす必要があるのですが、そもそもオープンした商圏内にそれを実現できる顧客数が不足している場合、「圧倒的なファン層」は作れても売上を伸ばしきるには至りません。目標の有効顧客数を得られる立地なのかどうかは、売上からの逆算でシビアに検証しておきたい部分です。

商圏人口からの逆算には、「ランチェスター戦略」における「シェア理論」をよく活用します。実際に、あるパンケーキを展開される支援先の場合、

目標売上 7,200万円=客数 48,000人×客単価 1,500円

目標客数 48,000人=有効顧客数 16,000人×年間平均来店回数3回

上記のような試算となり、成否は「平均して年間3回来店してもらえるか?」、そして「16,000人の有効顧客数を獲得できるか?」が判断の基準でした。前者は、先行プレーヤーの実積から算出しているため、ある程度目処が立ちます。問題は後者です。

この企業が出店したエリアの商圏人口は120,000人。つまり、商圏内でのシェア13.34%を獲得できれば成り立ちます。なお、他店と有効顧客のシェア争いに入り始めるのは10.90%といわれています。

このシェア率目安表の通り、13.34%という数値は、競合店にも負けない見込みが立つのならば「良い目標」だと言えます。さらに今後のシェア率の拡大、つまり売上増加にも十分な伸び代があるとして、商圏人口は「十分だ」となり、出店の判断が下りました。結果としても上記に近い数値を達成し、営業利益を稼ぐ繁盛店を作ることができたのです。

もし、商圏人口自体が半分であれば、26.10%が目安となる「トップシェアの獲得」が必須目標となります。競合が全くいない、などの外部環境がない限り、出店には至らなかったでしょう。

自分の業態を考えるときに、どの程度の商圏人口が必要で、そのうち何%を有効顧客にしていくのか。この視点は出店時に持っておきたいところです。

すごくお得なのに、なぜ潰れないのか?専門店MDを考える

商圏人口が確保でき、実際に出店を決めた場合に重要となるのが、MD(マーチャンダイジング:商品政策)です。成熟市場だからこそ、ユーザーに“驚き”を与える製品やサービスが必須となりますが、そのポイントは見極めねばなりません。

専門店の中には、ものすごく原価をかけて“お得”なのに、しっかり収益をあげている店があります。その理由として、MDを作成する際に「交差原価率」(各商品の原価率と、売上構成比率との掛け算をした数値)を意識していることが挙げられます。

実際に、居酒屋の中でもマグロに特化した「マグロ居酒屋」の例で見ていきます。この店舗ではマグロの刺身を、原価率70%と非常に廉価な設定で販売されています。しかし、交差原価率の考え方で、刺身を含むトータルで見ると、店全体の原価率は36.4%と適正な数値(一般的に35%が目安)に収まっています。それを示したのが、下図です。

刺身の原価率が高い分、まずは最も原価率の低いスピードメニューを刺身の前に販売し、刺身に飽きてきた層へは天ぷらをお勧めします。また、同じく原価率の低いドリンクを、売上構成比率で50%になるまで徹底して販売されています。

強い集客商品としての刺身をフックに、これらを接客力で成り立たせるからこそ、競合に負けない高い売上と適正原価率が両立するのです。最終的な営業利益率も、実際に高い数値で着地させています。

しかし、その接客ができなければどうなるでしょうか?仮に下図のように天ぷらとドリンクの販売が弱くなり、刺身の売上構成比が高くなってしまうだけで、原価率約50%と事業を成り立たせるのが難しい数値になってきます。

このように、専門性を打ち出していくからこそ、どこを強い魅力のある商品とし、どこで儲けるかのメリハリが必要になってくるのです。

また、交差原価率の考え方からは、単品原価率と売上構成比率の組み合わせで、商品を下記のように4つの層に分けることができます。MDを作成する際、これを元に「それぞれの商品の方向性は何か」をしっかり考えておく必要があるでしょう。

最近は単品専門店が増えてきましたが、ブームに乗っただけでは、その終焉と共に淘汰されてしまいます。そうならないためには、前回の「サブスクリプション」と同様に、どこでしっかりと収益を高めるかの視点が欠かせません。

CRMでいかに定着層を作っていくかと合わせて、このあたりは大切に運営していってほしいと思います。