中国トレンドマーケター・黄未来が行く「中国の小売実店舗」の現在地…日本市場の未来が見えた?

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中国トレンドマーケター・黄未来が行く「中国の小売実店舗」の現在地…日本市場の未来が見えた?

Text : 黄未来 / Editor : 吹原紗矢佳

経済産業省の調査によると、2016年の中国のBtoC EC市場規模は9,276億ドルで世界第1位。前年比40%と驚異的な伸び率であり、774.1億ドルで第4位の日本とは12倍もの大差がついている。急拡大を続ける中国のEC市場とともに、社会はどのように変化したのか。

本連載では、中国トレンドマーケターである黄未来氏に、現地在住ならではの考察を交えて、中国の小売事情について寄稿していただく。第3回目のテーマは、オンラインでの買い物が当たり前になった中国社会で、小売業が生き残るための戦術を解説する。

中国版Amazon/楽天ことTaobaoは、中国でトップシェアを誇るECプラットフォームだ。その画面を開いてみると、日用品や本といった従来の商品はもちろん、家庭教師の募集や翻訳サービス、海外旅行まで発注できる。スマホ一台あれば全ての消費行動が完結する中国の現代社会で、人々はあたかも「デジタルに住んでいる」と言っても過言ではない。

その中で、街中のオフラインの店舗は役割が変化しており、ブランドのビジョンやカルチャーを顧客に伝える場となり、顧客体験を通してブランドへのロイヤリティを高めるための役割を果たしている。また、オンライン(SNS、ECプラットフォーム、ネット広告など)ではリーチできていなかった新規顧客にリーチする手段としても活用されている。本記事では、そんな中国のオフラインの小売実店舗の事情を探っていく。

中国トレンドマーケター 黄未来氏
1989年中国・西安市生まれ。6歳で来日。早稲田大学先進理工学部卒業後、2012年に総合商社に入社。食糧品の貿易事業及び投資管理事業に6年半従事したのち、2018年秋より上海交通大学MBAに2年間留学中。

1. ブランド価値を伝える、体験型テーマパークとしての店舗

2018年10月、「上海の銀座」ともいえる一等地の世茂国際広場に、Nikeが「Nike 001」をオープンした。世界で2番目となるコンセプト旗艦店だ(1店舗目のNike 000はNYのマンハッタンにてオープン)。

店内に足を踏み入れると、4階建てで41,140平方メートルの大きな敷地に、Nikeの哲学が込められているさまざまな展示や商品をみられる。

まずは、贅沢な空間の使い方に注目してほしい。棚と棚の間に導線は広く確保されており、モニュメントが商品の合間で贅沢にスペースをとるなど、いたるところにさまざまな形式で設置されている。

この空間は、Nikeの売り場としての役割よりも、もはやNikeのテーマパークとして、視覚的・感覚的に楽しんでもらうという顧客体験を第一優先に設計されているのだ。

このように、360度誰が撮ってもインスタ映えする店作りと、贅沢な空間の使い方が特徴のNikeショップ。土日になると、多くの観光客が訪れるスポットと化しており、多くの人々が写真を取ったり、何かを買うわけでもなく店内のソファで寛いだりしている。

日本であれば、お店はモノを買うための場所であり、買いものをせずに長居したり、なんなら写真を撮るためだけに来店したりするなんてマナー違反と考えるかもしれない。

それが実現できているのは、高級感のある店づくり、ドアマンの配置といった要素で入店者のリテラシーが一定担保されている他にも、中国人の気質としては日本人と比べて「他人に関心がない」というのが最も大きな理由だろう。店内風紀に関する捉え方が大らかであり、目に余るほどの言動をしない限り、店員も来店客もそれほど他者を気にかけないのだ。

(画像:http://www.nikeinc.com.cn/html/page-2781.html#/inline/31422
地下1階は、プロジェクションマッピングによって、フロア一面が電光掲示板となっている。

また、中国のこのNikeショップの思想としては、お店の空間で楽しみ、Nikeに関する理解・好感度を高めてくれることをゴールとしており、実際に消費してもらうか否かは二の次である。なぜなら、そのブランドが好きならば、顧客はその場で買わなくとも、帰ってからおなじみのECショップ(公式ショップやTaobao、T-Mallなど)で購入してくれるからだ。

時期によっては、下記のような、自分がデザインしたNikeのスニーカーを作る体験ブースも。

消費行動が全てデジタルで完結してしまう現代中国だからこそ、ブランドの奥にあるカルチャーや思想を、顧客に対してじっくり伝える場は必要だ。ただ、そういった場はどんどん少なくなっている。すると、たとえ一時的にヒット商品を生み出したとしても、流行りが過ぎ去ると共に顧客も他のブランドへ関心が移り変わってしまうのだ。

そこで、店舗に来て遊んで、五感で体験して、じっくり時間を過ごしてもらうことによって、デジタルマーケティングでは実現できなかった、ロイヤリティーの形成およびブランドのファンへの転換を図っているのである。

2. 新規顧客の獲得を目的としたショールーム型の店舗

経済成長とともに地価が高騰し続ける上海で、全てのブランドがNikeのように、一等地に自前の常設店を構えられるわけではない。そこで、多くのブランドが、自社の世界観を顧客に伝えるためのショールームとして、一等地にてポップアップイベントを定期的に催しているのだ。

こちらは、上海の一等地である静安寺にて開催された、雑誌のVOGUEによる1週間のポップアップイベントの様子である。無料にて写真撮影のブース、カフェや帽子製作の講座を楽しめる構成となっている。

そして、カフェで無料のコーヒーやケーキとの引き換えに、WeChatの公式アカウントのフォローを求められる仕組みだ。このイベントでは、入場の事前申し込みを要しないことで、通りすがりのおしゃれに関心がある女性を取り込み、体験を通して自社フォローさせることで新規顧客の獲得を目論んでいるのだ。

このように、中国のポップアップイベントでは特徴的なポイントとして、エンターテインメント性を最重要視させている。よって、イベントの会場内で、自社商品を全く置いていない場合も多く(このVOGUEのイベント然り)、その代わりに、自撮りができてインスタ映えする撮影ブースを必ず複数用意している。

上海女子の「自撮り欲」は日本人女性よりはるかに高いため、そこで皆、楽しく互いに撮影しあうことで空間を楽しむのだ。企業側は、その空間に自社のブランドメッセージや世界観を詰め込むことで、顧客に自社ブランドの濃いファンになってもらうのである。

3. やがてオンラインとオフラインの垣根がなくなっていく

第1回と第2回で紹介したスーパーマーケットのフーマー、そして、第3回で紹介した新たな体験型テーマパークやショールーム型店舗の登場で、中国の小売業最先端の様子を紹介した。

本連載を通じて、オンラインが加速する時代の小売の実店舗について話をしてきた。アリババのジャックマーは、「10年後、20年後の未来に、ECがなくなり、代わりにニューリテールが出てくるだろう。これはオフライン、オンラインと物流の融合である」と語っている。彼が意味しているのは、オンラインとオフラインをユーザーが区別しなくなり、企業側も販売や物流をこのような論理で分けなくなる時代が間近に迫りつつある。

そして、カスタマージャーニーを設計する際も、それぞれのステップで、オフラインとオンラインを交差するようになるだろう。例えば、先日、DOUYIN(中国版TikTok)で非常に話題となった映像がこちら。

上海の郊外にあるこのモールでは、こうした本物の遊園地顔負けのアトラクションを設置したイベントを、期間限定で入れ替えて行っている。自ら広告を打つ代わりに、これらのイベントを通して、SNS上で話題を呼んで認知を増やし、新規顧客をモールに呼び寄せる。

次に、モール内で買い物や体験を行ってもらい、その様子をさらに顧客のSNS上にアップさせることによって、顧客の承認欲求を満たすとともに、更なる顧客を呼び寄せる宣伝の部分を担ってもらうのだ。そして、このモールでは、フードデリバリーをはじめとしたオンラインでの販売も行っているため、既存顧客にはオンラインでの消費も徐々に高めて…といったオンラインとオフラインを行ったり来たりするサイクルを描いている。

今後、日本でもEC化が間違いなく加速していく中で、中国の小売が向かう方向性は間違いなく日本市場の未来の姿であるため、注視していきたい。