“流行り”の先に何を残せるか?——AIプラットフォーマーの視点で切り込む「無人店舗」の展開図

interview

“流行り”の先に何を残せるか?——AIプラットフォーマーの視点で切り込む「無人店舗」の展開図

Text : なかがわ あすか / Editor : 佐々木将史

アメリカの「Amazon Go」、中国の「BingoBox」に代表されるように、海外ではここ数年「無人店舗」が急速な広がりを見せている。国内でも、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が赤羽駅にAI無人決済店舗を試験的に設置したことで、メディアの注目を集めたのは記憶に新しい。国内外問わず、日進月歩の勢いで発展し続ける無人店舗は、一体なぜここまで注目を浴び、実用化が急がれているのか。今後の日本における動向は——。

AIプラットフォーム開発やIoTサービス企画を行い、国内で無人店舗の普及を後押しする株式会社テクムズ代表取締役の鈴木孝昌が、この時流について筆者との対話を通じて考察する。

鈴木 孝昌

1974年6月生まれ。豊橋高校出身。米国オハイオ州立大学航空経営学部を卒業後、外資系メーカーの日本支社立ち上げやエンドユーザーシステム部門での役員など、日本のみならず欧米や東南アジアなど世界各国でグローバルなビジネス感覚を養う。その後、日本の素晴らしさを海外に伝えたいという想いから、株式会社テクムズを起業。

各国の社会背景から紐解く、今「無人店舗」が注目される理由

ーーアメリカ、中国、日本など、世界的に無人店舗が注目を集めています。

鈴木:どの国においても共通して言えることは、顧客データを売買する「データビジネス」が裏側に潜んでいることです。これまで収集することのできなかったリアル店舗での顧客の動きは、AIの画像解析によって「データ化」できるようになりました。顧客の正確な購買行動が把握できれば、それに適応した施策を打てる。その点は万国共通の注目点かなと思います。

ーー国ごとの事情もあるのでしょうか。

鈴木:ありますね。アメリカと日本の両国では通じる部分も多いです。一つは“人材不足”の課題を解決できることです。サンフランシスコではIT業界で働く人が不足しており、プログラミングの知識が少しでも備わっている者ならば、エンジニアとして“コンビニで働く数倍の給料”で働けるようになったという話も耳にしました。高待遇の期待できないコンビニで働きたいと思う人の数は、今後減少する一方でしょう。

日本は、そもそもの生産年齢人口も減ってきています。店舗の「無人化」が進めば、人材確保にリソースを割かなくて良いのが、企業にとって大きなメリットです。

ーー人手不足に悩む国ならではの視点ですね。

鈴木:ただ、中国で無人店舗が流行っている理由はそれらとは少し異なると考えています。こちらは、ただ単に利便性を追求をした結果かなと。中国初の無人コンビニBingoBox(繽果盒子/ビンゴボックス)の誕生を皮切りに、国内の他企業がその流行りに乗じて加速していったのかなと思います。

Bingo Box 公式サイトより

ーー同店は、2016年8月に1店舗目をオープンし、わずか1年余りで約30都市、200店舗体制に成長したと聞きました。しかし、ここ最近ではその店舗数も減少傾向にあるとか。

鈴木:一時的に流行ったものの、あまり儲からないそうです。最初こそ物珍らしさで大勢の興味を惹くのですが、リピーターが増えない。単純に中国人が飽きたというのもありますが、「最新の技術を体験できる」以外の点で顧客を満足させられなかったのかなと思います。

ーー中国の無人店舗は、これから下火になっていくのでしょうか。

鈴木:いえ、むしろ今から本格的に伸びてくると踏んでいます。失敗体験もあるという意味では、無人店舗戦略は世界的に中国が最も進んでいるからです。国内での競合が多かったので、とにかく多くの技術を試しているんですよね。大手ECのAlibaba Group(阿里巴巴集団/アリババ・グループ)は、リアル店舗へも意欲的に進出して、色んなチャレンジをしています。アリババを筆頭に投資資金が豊富にあり、スマホ決済が浸透している点でも、やはり中国は優勢だと考えます。

ーーアメリカや中国の場合、キャッシュレス文化が根付いている点も、無人店舗の実現を推し進めたように思います。

鈴木:それは大いにありますね。クレジットカード社会のアメリカと、スマホ決済の中国。現金を介さない購買の浸透率が高ければ、無人店舗はより広めやすいです。日本国内の無人店舗ビジネスが遅れ気味なのは、日本人の多くが現金主義だからということも少なからず関係していると思います。

日本の「無人店舗」は今後どう広がるか

ーーキャッシュレス化は日本にとって大きな課題ですね。無人店舗が広がっていくためのポイントとして、逆にポジティブな要素は日本にあるのでしょうか。

鈴木:一つは店内商品を補充するために欠かせない、物流が発達していること。日本は国土が狭いこともあり、他国に比べて山奥でも物が届く仕組みができています。もし、宅配業者が商品を配送し、陳列まで行うという契約を結んでくれたならば、都市部だけに限らず地方でも無人店舗は広がると思います。日本人ドライバーの真面目さもキーポイントになるでしょうね。商品補充で「陳列までお願いします」と頼んだときにも、丁寧に並べてくれるはずです。

ーー海外では家の前にダンボールが放置されていたり、到着予定日より大幅に遅延したりと、配送トラブルの話をよく耳にします。

鈴木:配送の段階でトラブルがある国では、商品陳列でもそのアバウトさが出てしまうことが予想されます。陳列の整理がされてない無人店舗に行くならば、ネットショップで買い物をするほうがマシだと考える人は多いでしょう。そういった意味では、海外に比べ、日本のほうが無人店舗の広がる可能性が高いと言えます。

ーー直近では、JR東日本が赤羽駅で無人決済店舗を設置しましたよね。今後日本ではどのような企業が無人店舗の流れに参入してくるのでしょうか。

鈴木:コンビニ、スーパー、ドラッグストアが参入してくると思います。その根拠は、店内設備や顧客体験に大きく影響する「店舗面積」にあります。というのも無人店舗の面積は、万引き防止のために死角を作らないという意味で、カメラの台数に依存してしまうんですね。

ーーAmazon Goですら、カメラを130台用意して、センサーを張り巡らせていましたよね。

鈴木:カメラは1台あたりの単価が高いため、むやみやたらに設置できません。台数に限りがあるということは、店舗を構えられる面積にも限界があるということです。広すぎればそうした設備が追いつかず、狭すぎれば顧客が満足できる購買体験を提供できない。ほど良い大きさの店舗で効率的に物を売れる企業は、無人店舗の波に乗れると思います。

ーー10月16日から開催された「CEATEC JAPAN 2018」では、ローソンが投影キャラクターによる接客をデモンストレーションし、話題を呼びました。今後展開される無人店舗では、AIロボットの接客が主流になってくるのでしょうか。

鈴木:そうだと思います。実はテクムズでも「洞察力」を持ったAIカメラを開発しているんです。このカメラを使えば、店舗内での顧客の動きを分析し、その人が何を考えているのかを瞬時に予測できるようになる。赤色の洋服ばかり目で追っている人を見つければ、「この人は赤色が気になるのだろう」と予想を立て、赤い洋服のある場所を勧めるようなことはできると思います。

「無人店舗」を単なる“流行り”で終わらせないために

ーー接客がロボットになる場合、人の温かみが感じられずに「顧客体験」や「おもてなし」が不十分になるという声もあります。

鈴木:重要なのは「あなたのためだけに」を心がけた接客だと思います。過去に一度、こんな話を聞いたことがあります。そのホテルは枕が選べるのですが、いつも必ず同じ枕をセレクトする常連客がいて、彼が翌日泊まることが分かった。そこでホテルスタッフは、彼の部屋に「いつもと同じ枕」を用意し、手紙を添えておいたそうです。男性客は、この対応に大変喜ばれたとか。その場に人がいなくても「あなたのためだけに」という心意気が何らかの形で伝われば、顧客は温かみを感じられると思うんですよ。

ーー提供する「顧客体験」にそこまで差し支えはないわけですね。

鈴木:今年の3月、私たちもリテールテックJAPANでブースを構え、AIロボットが「○○さま(個人名)、いらっしゃいませ」と声をかける仕組みを展示したところ、たくさんの好評を頂きました。相手がロボットでも、自分のために声をかけてくれるという体験は、きっと多くの方に刺さるはずです。

ーー「顧客体験」以外にも、無人店舗を展開するに当たってクリアすべき課題はあるのでしょうか。

鈴木:先ほども少し触れましたが、国内でキャッシュレス決済をどれだけ浸透できるかは重要なポイントだと思います。特にスマートフォンやクレジットカードの扱いに慣れていないシニア層に、現金以外の決済手段をどうやって習得していただくかは、しっかり考えていく必要があります。

ーー最後に、これから無人店舗を展開しようとする企業が考えていくべきことについて聞かせてください。

鈴木:それはやはり、無人店舗を単なる“流行り”で終わらせないための工夫ですね。「店舗に人がいない」という真新しさだけを頼りにしていては、売り上げは伸びません。顧客の購買行動データを継続的に集めていくためにも、リピーターを増やすことは念頭に置く必要があります。先ほどの「あなたのためだけに」のおもてなしや、豊富な商品バリエーションなど、顧客を飽きさせない仕掛けこそが無人店舗の明暗を分けるはずです。

先日、日本政府は2019年10月から、中小小売店に対してキャッシュレス決済の導入を支援する旨を発表した。近頃では、シニア層に向けてスマートフォンの使い方講座を開催する地方自治体も現れている。今後は企業の努力のみならず、こういった行政の推進力も、無人店舗が広がる一つの鍵になるはずだ。

だが、“流行る”だけでは意味がない。大切なのは、“流行り”のさきに何を残せるか。中国の失敗を省み、日本企業も無人店舗を展開する際には「最新技術を体験できる」以外の価値を重要視していきたい。

フリーライター。1994年生まれ。学生時代に国際交流事業に携わるなかで、スロバキアに興味を持ち、長期留学を決意。その体験記を旅行メディア「REISEN」で執筆し始めたことをきっかけにWEBメディアの魅力を実感。帰国後は名古屋・東京の複数メディアで本格的に執筆を始め、フリーペーパーの営業・編集を経たのち、フリーランスの道へ。執筆領域はグルメ、ビジネス、スポーツ、ライフスタイルなど。

なかがわ あすか

関連記事