「失敗」扱いのオムニチャネルは再び救世主となるのか。AI時代に考える、実店舗とECの進化形

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「失敗」扱いのオムニチャネルは再び救世主となるのか。AI時代に考える、実店舗とECの進化形

Text : fukiharasayaka / Editor : 佐々木将史

株式会社セブン&アイ・ホールディングス(以下セブン&アイHD)が、2015年11月にオープンしたECモール「オムニ7」。同社では、“リアルとネットの融合”を謳う「オムニチャネル戦略」をセブン-イレブンの登場に続く新たなステージと位置づけ、新しい買物習慣をつくることを目指していた。当時、小売業界からは多くの注目が集められ、オムニチャネルは“救世主”とも呼ばれていた。

蓋を開けてみると、2018年2月末の会員数は約785万人、売上は1,087億円。当初の目標値は2019年2月期に売上高1兆円だったが、これには程遠い数字となっている。そのため、オムニ7もオムニチャネル自体も、“失敗”とともに語られてしまうようになった。

これを受けて、オムニチャネルに二の足を踏んでいる企業も少なくはない。果たして、そこに未来はあるのだろうか。

AIプラットフォーム開発やIoTサービス企画を行い、国内で無人店舗の普及などを後押しする株式会社テクムズ代表取締役の鈴木孝昌が、過去の事例を紐解きつつ、今後の展望を語った。

鈴木 孝昌
1974年6月生まれ。豊橋高校出身。米国オハイオ州立大学航空経営学部を卒業後、外資系メーカーの日本支社立ち上げやエンドユーザーシステム部門での役員など、日本のみならず欧米や東南アジアなど世界各国でグローバルなビジネス感覚を養う。その後、日本の素晴らしさを海外に伝えたいという想いから、株式会社テクムズを起業。

「オムニチャネル」の失敗を招いた、技術と組織構造の問題

――オムニチャネルが最初に盛り上がったのはいつ頃でしたか。当時の時代背景も教えてください。

鈴木:2008年頃です。そもそものきっかけは、2000年に日本でサービスをスタートしたAmazonですね。彼らがネット通販において、ニッチで販売機会の少ない商品を大量に取り揃えれば、全体としての売上が大きくなることを示した。Amazonの成功に触発されて、「楽天市場」や「ZOZOTOWN」が登場するなど、日本でも急速にECが流行ってきました。

そんな中、ヨドバシカメラやビックカメラがインターネットで販売を始めたのを走りとして、実店舗をもつニトリや無印良品もECを作り、生活用品のネットスーパーが賑わいを見せていきました。セブン&アイHDがインターネット宅食の「セブンミール」を始めたのもその頃ですね。「SEO対策」や「Webマーケティング」が注目され始めたことも背景にあって、オムニチャネルへの期待が高まりました。

――それが今では、“失敗”とともに語られるようになった。原因は何でしょうか。

鈴木:オムニチャネルの本来の目的は、「実店舗とECの共存・融合」です。しかし、日本企業は縦割り組織であるため、実店舗とWeb販売事業を担当する部門がうまくかみ合わず、失敗に繋がってしまったのでしょう。

オムニチャネルが流行ったとき、ある企業がWebマーケティングや経営チームでオムニチャネル部隊を作りたいということで、何度か打ち合わせをしたことがあります。そのとき、上から課される売上や利益の目標が重しになって、お互いに協力しようという流れにならなかったんです。

それぞれの事業だけにフォーカスしてしまったんですね。

鈴木:もしそこに、横串を通してみんなを束ね、全体の目標を示す人がいれば違ったかもしれません。互いに協力すれば、売上も倍になったかもしれない。でも、目の前の数字に左右されて、将来への投資ができなかった。そんな事例は他にもよく聞きました。私は、それを“オムニチャネルの失敗”と呼んでいます。

株式会社テクムズ代表取締役・鈴木孝昌

――それには技術面も関連しているのでしょうか。

鈴木:今のような技術があれば、失敗を避けられた可能性はあると思います。AI技術を活用した画像解析などで、得られるデータが多ければ多いほど、成功の確率は上げられますから。ただ、当時の実店舗で得られていたのはPOSデータのみです。そこが原因であり、反省点だったと思います。

――POSデータだけでは不十分だったと。

鈴木:それさえ見ていれば、なんとかなるだろうという傾向にあったのかもしれません。

「Tポイント」や「Pontaポイント」など、顧客情報や購買履歴が得られるポイントカードが広がりを見せていたのも、オムニチャネルが取り沙汰されていた時代です。ポイント利用者の情報を売買することがビジネスになり、企業は努力せず顧客データを得ることに慣れてしまった。しかし、自社のPOSデータだけだと、顧客が何かを買ったという結果でしかないんです。そこに何かしら別のデータを掛け合わせたら、いろんな施策が打てたのかもしれませんが。

――オムニチャネルが失速し始めて、その後の流れをどう見ましたか。

鈴木:「実店舗より、ECの方が大きく売上げられるのではないか」という流れになってきました。物流の環境が整ってきたので、地方の商店でも、日本全国に発送すれば売上が立ちますよね。プラットフォームとしての楽天市場やAmazonの便利さがもてはやされるようになった頃から、オムニチャネルが失速し始めたように思います。

――多岐にわたる販売チャネルの、どこからでもユーザーがスムーズに購入できることがオムニチャネルの本来の目的ですよね。それが損なわれてしまったということですか。

鈴木:いろんな販売経路を模索した結果、ECへ偏重してしまったんです。オムニチャネルが流行したとき、販売経路を増やすためのサイトがたくさん生み出されました。WebマーケティングやSEO対策を知っていたら物が売れるので、さほど人件費をかけずとも、大きな利益が上がります。

次第に企業は実店舗にはコストを割かず、ECには何千万というマーケティング費用をかけるようになった。逆転現象のようなものが起こってしまったわけです。経営者も実店舗という現場を軽視をして、どんどんECを増やし、結果的に地方のデパートが潰れるようなことも起こり始めました。

実店舗での心地よい「顧客体験」が見直されている

――これからはECが盛り上がっていくのでしょうか。

鈴木:実は、そこには誤解があります。例えば、国土が広くクルマ文化のあるアメリカと、公共交通が発達している日本では、買い物に対する考え方が違います。宅配の方が便利だと考えるアメリカでは、大きなショッピングモールが閉鎖に追い込まれる事例も出始めていますが、これがそのまま日本で起きるわけではありません。

――とはいえ、実店舗にとっての弊害は日本でも起こっている気がします。

鈴木:それはありますね。インターネットやスマートフォンが普及する前は、東京で流行したものが地方へ届くまで、タイムラグがありました。テレビや雑誌で流行を知っても、東京に行かないと購入できなかったからです。地方の中核都市、さらにセレクトショップへと渡るまでに数年かかっていました。今はそのタイムラグがなくなり、地方のセレクトショップは苦境に立たされています。

――確かに、自社通販の広まりだけでなく、メルカリなどのスマホアプリで流行の服がすぐに買えるようになりました。

鈴木:物流の環境も整ってきたので、東京の人が飽きたものをすぐに売り、それが翌日には次の人に渡る。顧客にとっては便利ですよね。

――これからの実店舗は、どうなっていくのでしょうか。

鈴木:先ほども触れましたが、商品をその場で選ぶ「顧客体験」が見直されていますね。ECで感じる体験と、実店舗のそれは違います。宅配業者が購入品を届けてくれるより、実店舗で直接購入してお礼を言ってもらえた方が、喜びは大きい。

最近は、そんなコミュニケーションに飢えている人も多い気がします。その流れを私たちテクムズの力でもっと加速したいんですよね。

――現状、テクムズで構想する仕掛けはありますか。

鈴木:AIカメラによる顔認識の技術を開発しています。これにより、顧客一人ひとりの過去の来店時間や購入履歴を見える化し、より親近感のある接客を実現して効果的に商品を提供できます。仮に人がいなくても、馴染みの店員のように好みをレコメンドしたりすることも可能となるでしょう。「買ったぞ!」という心地よい体験を経て、スキップしながら家に帰る。そんな人が増えたらと思います。

店舗を盛り上げ、オムニチャネルを復活させる鍵は「データの共有」

――今でこそ「オムニチャネル」という言葉自体はあまり聞かれなくなりました。しかし、販売チャネルは多数残っています。それはオムニチャネルとして本当に機能していないのですか。

鈴木:顧客がサービスを使い分けてしまうことで、今は損なわれてしまっています。例えば、日用品はAlexaを使ってAmazonで買うけれど、洋服は実店舗に見に行ったり。オムニチャネルの本来の目的は、すべての販売チャネルと顧客のデータを統一して管理し、接客を行うことです。

――現代において、当時のオムニチャネルに変わるような戦略はありますか。

鈴木:企業の中で、リアルとネットを融合しようとする動きはあります。私たちが普及させようとしている無人店舗もその一つですね。

あとは、ユニクロなどのスマホアプリで配信されているクーポン類もそうです。これは、会員登録やECでの購入履歴など、ネット上で得た顧客情報を実店舗でも使えるようにするものですね。実店舗のPOSデータで得た情報も、スマートフォンを通せば販売促進に利用できます。

――ツールが充実してきた今だからこそ、実店舗とECの融合ができるようになったと。このままオムニチャネルは復活しますか。

鈴木:Amazonがニューヨークに出店するなど、ECからの実店舗に関しても盛り上がり始めました。その流れを私たちも作って、オムニチャネルは復活させたいですね。

――そこに何か具体的なビジョンは見えていますか。

鈴木:決済情報が鍵なので、自社でクレジットカードを発行している会社であれば、オムニチャネルの復活は意外とやり易いかなと思います。あとは、ポイントカードに蓄積された顧客の購入履歴をどう使うかですね。

――関連会社がクレジットカードを発行し、ネットスーパーも展開している企業もあります。その場合、ECとリアルの融合は可能でしょうか。

鈴木:決済会社とスーパーを展開している会社が別となると、簡単ではないでしょうね。会社を超えてデータをやり取りすることになるので。だからこそ、オムニチャネル復活と店舗の盛り上がりを成功させる鍵は、「データの共有」です。

企業が貯めてきた購買履歴を、涙を拭って他の会社に提供する。そして、データを渡したことによる対価を得られる。これができれば、盛り上がりを加速させられるでしょう。

――個人情報の取り扱いに厳しい日本では、なかなか難しい気もします。

鈴木:それでも、私たちは盛り上げる術を知っています。先ほどのAIカメラによる認識では、写真を残さず顔の特徴のみを数値化できるんです。セキュリティに配慮した記録技術を並行して開発することで、データの共有はしやすくなります。

AIが分析すると、実は顧客の「30分後の未来」くらいは予想できる。これがデータの強みですね。ただし、予測結果を持っているだけでは意味がありません。あくまで目的は、それを活かして積極的な販売促進をすること。当然、顧客にとって価値のある体験が得られなければいけません。今後はそこが重要となってくるでしょう。

デジタル時代の今、顧客が望んでいるのは、シームレスで心地よい購買体験。これを叶えるためには、ECや実店舗をつなぐ「オムニチャネル」の実現が必須だ。かつての失敗を招いた要因の一つである技術不足は、ITやAIの発達した今ならクリアできる。だからこそ、組織を超えてデータの共有に向き合うことで、オムニチャネルの未来が明るいものになるではないか。鈴木の口振りからは、そんな希望も伺えた。