ローソンがAIやテクノロジーから見出した「コンビニの使命」と「絶対になくならない仕事」

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ローソンがAIやテクノロジーから見出した「コンビニの使命」と「絶対になくならない仕事」

Text : 筒井 智子 / Editor : 吹原紗矢佳

2018年10月に幕張メッセで開催された、IT技術とエレクトロニクスの国際展示会「CEATEC JAPAN」に、ローソンは小売業界から初めて出展した。

RFIDを活用したウォークスルー決済や、SHOWROOM株式会社と共同研究を進めているバーチャルクルーによる接客など、ローソンの考える「未来のコンビニ」が示された展示だった。今回はその展示をもとに、同社経営戦略本部 オープン・イノベーション・センターの佐藤正隆氏と宮田尚武氏に、今後の戦略について伺った。

佐藤 正隆(さとう まさたか)
2015年に総合商社へ入社。資材トレーディング業務に携わる。2018年8月よりローソンへ。現在はオープン・イノベーションセンターのアシスタントマネジャー担当。
宮田 尚武(みやた ひさたけ)
外資系生命保険会社、外資系損害保険会社にてプロジェクトマネージャとして従事。2018年4月より株式会社ローソンデジタルイノベーション サービスデリバリー本部に所属。

データを活用した“より深い”パーソナライズ接客

ウォークスルー決済

コンビニで働く際、その業務の大半を占めるのがレジ業務だ。さまざまな決済手段やサービスが増え続ける中、ローソンのスタッフ(以下、「クルー」)も例外ではなかった。

「最も負荷の高いレジ業務をなくせば接客に力を入れられるのでは」という発想で、購入したい商品を袋に入れてゲートを通過するだけで会計を行える「ウォークスルー決済」が誕生。CEATECでは、ローソンブース最大の目玉として展示された。

ウォークスルー決済は昨今話題の無人店舗にもつながり得るツールだが、それを目指しているわけではないと宮田氏は語る。

宮田「無人店舗を実現できる技術やツールを取り入れていますが、あくまでクルーが接客に集中するためです。接客は好きだけど、業務が複雑すぎると感じていたアクティブシニアの方々でも働きやすくなるはずです」

コンビニに限らず、人手不足に頭を悩ませている業界は多い。業務負荷を減らし、誰でも働きやすい環境を整えることで、人手不足の解消にもつながるはずだと宮田氏は期待をにじませる。

また、CEATECでは、SHOWROOMとの共同で研究・開発した「バーチャルクルー」が展示され、話題となった。遠隔配信の技術を活用し、キャラクターの裏側にいる人間とリアルタイムに会話ができる。このバーチャルクルーには大きく3つの目的がある。

1つは、いわゆるVTuberのようなキャラクターが出迎えてくれるエンターテイメント性。

2つ目は人手不足の補完。例えば、深夜の時間帯に店員が1人しかいない場合、来店客に気づきにくいことがある。バーチャルクルーがまず出迎えることで、クルーが接客するまでの間の「おもてなし」もできるのだ。

3つ目は働く機会の創出。バーチャルクルーはネット回線とPCさえあれば、24時間365日どこでも遠隔で接客できる。2時間だけスポットで働きたいというニーズにも、バーチャルクルーによる接客を補完的に組み合わせることで応えられるようになる。

ローソンが目指しているのは、昔ながらの街の売店では自然に行われていた「しばらく来なかったね、テスト期間だった?」「ちょっと顔色が悪いね。温かいものでも食べる?」というようなパーソナライズされた接客だ。

宮田「データを活用することで、より深いレベルでのパーソナライズができるようになります。ローソンはさまざまな取り組みを行っていますが、発想の起点は全てお客さまやクルーの方々です。彼らにどんな付加価値を提供すれば喜んでもらえるのか、働きやすいのか。そのために必要なデータは何か、という発想です」

ウォークスルー決済もバーチャルクルーも、あくまで「ツール」。AIやデータ活用によって置き換えられることはを置き換え、クルーは人にしかできないことに注力していく。

オープンイノベーションセンターの狙い

ローソンは2017年5月、オープンイノベーションセンターを設立した。ここではさまざまな業種や省庁などと連携し、店舗向けの最新テクノロジーを検証している。

さらに同年10月には、都内某所にコンビニ業界では初となるオープンイノベーションラボを開設。パートナー企業とともに最新技術を採り入れた実験を行っている。

佐藤「ローソンには、チャレンジ気質の強い企業文化があります。ラボの存在を耳にした異業種の方が連絡をくださるなど、新たなイノベーションが生まれるきっかけになっています。みなさんから多様なご意見をいただき、ディスカッションしていく。パートナーシップ醸成のために、ラボは最適な場だと感じています」

ラボで行っている実証実験の1つに、ToF(Time of Flight)センサーを用いた動線分析がある。客の動線はもちろん、クルーの動線を分析することで、最適な店内レイアウトなどを探っているのだ。

また、2018年7月からソフトバンククリエイティブと共同で、「インテリジェントラベル」の実証実験を実店舗で行っている。「シーズンエンド棚」と呼ばれる視認性の高い場所にある棚をメディア化し、広告収入のような形で新たな収益の柱を作る取り組みだ。

棚の値札の位置にはデジタルサイネージが付いており、価格や広告が表示される。客が棚に近寄ると、棚の上部に設置されたディスプレイにその日の天候に合わせたオススメ商品が表示され、商品を手に取るとその商品の説明が表示される。天井にはセンサーが付いており、人が近づくと、性別などその人の属性を判断している。そのため、近寄ってきた人の属性に合わせた広告を表示できる。

マーケティング活動だけでなく、AIを活用することで将来的にはパーソナライズ化につなげていきたいと佐藤氏は語る。

佐藤「メーカー側も、棚で商品をずっと見ていながら結局買わなかった人の心理を知りたい、最後のひと押しをして買ってもらいたいと考えています。広告費を払ってディスプレイに広告を流すだけでなく、一緒にデータ分析をしながらディスカッションを重ねています」

さらに今後は、AIを活用した需要予測を検討していきたいと佐藤氏は意気込む。これまでの経験値から注文商品をサジェストしてくれる「セミオート発注」はすでにあるが、より精度を上げたい意向だ。

佐藤「コンビニは適切な発注をしなければ、廃棄ロスや機会ロスを出すリスクが高まります。需給を一致させることで、廃棄ロスや機会ロスを最小化していきたいのです。過去の履歴や傾向などのデータを分析するのは、AIの得意分野だと捉えています」

また、2019年1月には自動運転技術を持つZMP社と共同で、慶應義塾大学藤沢キャンパス内での無人配送の実証実験を行った。

移動販売の取り組みもすでに行っているが、これにはクルーの人手がかかる。無人配送が実現すれば、限界集落など近隣にスーパーがない地域にも、人手をかけずにものを届けることができるようになる。

宮田「実証実験をして初めて分かることも多い。それがオープンイノベーションセンターの役割でもあります」

街のインフラとしてのコンビニの使命

佐藤氏は先日、新たに開業してオーナーになる人々向けの研修に参加した。そこに集まった全国のオーナーと話す機会があり、さまざまな気づきを得たという。

佐藤「本社で最新テクノロジーの話をしていると、人がたくさんいる都心の店舗をイメージしがちです。でも全国には、近所にコンビニがなく不便を感じている人もいます。彼らを助けたいとおっしゃるオーナーさんがいて、これこそコンビニの本質だと思いました」

ローソンのコーポレートフィロソフィは「私たちは、“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」だ。街によって住んでいる人や求められる商品は異なる。オーナーたちの思いや悩みもさまざまだ。佐藤氏は、「オーナーのみなさんが実現したい店、提供したいものを、より実現しやすくするためにテクノロジーを活用していきたい」と熱を込めて語ってくれた。

オープンイノベーションセンターにいると、ややもするとテクノロジー寄りの思考になりがちだという。

佐藤「先進的なものを取り入れるのも大事だが、リアルの街に対してどのような価値を提供していくか。それを常に頭に入れておく必要があります」

IoTやロボティクスなど、さまざまな技術によって人の仕事が奪われていくのではと危惧する人も多い。宮田氏は、それでも接客は絶対になくならないと言う。

宮田「国も街も全部“人”で成り立っていますよね。人と人との接点は、やはり最も大切なもののひとつだと思います。人には感性があるし、人ならではの温かみもある。AIでは代替できない、人間とロボットが根本的に違う部分です」

ローソンは、それらを大切にしていける環境を整えていくために、“ツール”を探求している。それぞれのオーナーに、地域や人に対して「こうしたい」と思い描く未来があり、それを実現させるためのツールとして、最新技術があるのだ。

宮田「多数のカメラやセンサーによる最新技術で運用されている無人店舗もあります。しかし私は、表に出ない技術でもいいと思っています。こんなのがあったんだ、と言われるレベルで、それこそ黒子のようでもいい。新しい取り組みももちろんいいのですが、それが顧客から本当に求められているものなのか、そこを考えていきたいですね」

もちろん、技術的なことで解決できることもある。“みんなと暮らすマチを幸せにする”ために、ローソンは探求し続ける。

宮田「コンビニは買い物する場ではなく、サービスを提供する場として定義してはどうかと考えています。例えば店内のイートインスペースで囲碁教室をやってもいいと思うんです。講師はリモートで教え、生徒はイートインスペースで教わることができますよね」

年配者の中には、家から出るのを億劫に感じる人も多い。外に出かけるきっかけとして、ローソンというコミュニティスポットを活用してほしいと宮田氏は語ってくれた。

ローソンは全国に約14,000店舗あり、街のインフラとして郵便局や調剤薬局、ガソリンスタンドなどと組んで、その街の人たちの暮らしを支えている。それはある意味、コンビニとして与えられた使命なのかもしれない。オープンイノベーションセンターは今後も、ローソンが街のインフラになれるような取り組みを続けていく。