観光地のよくある飲食店が、データ活用で最先端の経営へ!伊勢の老舗食堂「ゑびや」が日本中から「AI技術と効率化」で注目されている【前編】

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観光地のよくある飲食店が、データ活用で最先端の経営へ!伊勢の老舗食堂「ゑびや」が日本中から「AI技術と効率化」で注目されている【前編】

Text : なかがわ あすか / Editor : 吹原紗矢佳

多くの観光客で賑わう三重県・伊勢市にある寂れかけた飲食店から、たった6年で驚くべき成長を遂げた企業がある。創業100年以上の歴史を持ち、和食堂や土産物店などの商業施設を営む有限会社ゑびやだ。同社は、長年の慣習から脱却した、AI技術によるデータ活用を駆使した事業戦略で、一躍脚光を浴びた。成功への舵を取った同社の代表取締役、小田島 春樹氏に話を伺った。

有限会社ゑびや 代表取締役 小田島 春樹氏

1985年生まれ。大学卒業後にソフトバンク株式会社へ入社し、人事や新規事業開発を担当。2012年に妻の家業である有限会社ゑびやへ入社、専務などを経て17年9月から現職。従来の食堂業とは異なるレストラン、一般消費者向けのお土産品の小売・商品開発、来客データを活用した研究事業などを新規開発。現在は、三重大学大学院地域イノベーション学研究科博士課程で論文を執筆中。

データは裏切らない。それを証明するかのような出来事が、取材当日に起きた。

その日は台風明けによる行楽日和であり、小田島氏を含む経営スタッフは「これだけ晴れているなら、来客数は増えるだろう」と見込んでいた。だが、ゑびやが導入している来客予測ツールは、当日の来客数を139名と通常よりもはるかに低く見込み、実数は123名とほぼ予測通りに着地。取材陣を含め、データにおける信頼性の高さに驚かされた。

かつてのゑびやは、観光地のどこにでもあるような食堂だった

ソフトバンクで新規事業の開拓に従事していた小田島氏が、妻の実家であるゑびやを手伝うようになったのは2012年のこと。業績は長年にわたり低空飛行を続け、店舗をテナントとして売りに出す意見すら上がっていた。

「よくある観光地の、どこにでもあるような食堂でしたね。店頭の食品サンプルは日に焼け、店内にはエアコンすら設置していない。店自体の雰囲気が良くなかったので、店内で大騒ぎするなど、態度の悪いお客さんが絶えませんでした」

小田島氏は最初こそ店長という立場から、店舗経営陣による話し合いの内容を確認し、その取りまとめのみ行っていた。しかし、あまりにもずさんな経営計画に疑問を持ち始めたという。事業を縮小しない方向で、立て直すことはできないだろうか。100年以上続いてきた老舗であるゑびやの可能性を信じ、経営再建へ踏み切ることを決意する。だが、解決すべき問題は山ほどあった。

経営再建のため、小田島氏は手当たり次第に事業のテコ入れを始める。料理の写真を一から撮影し、パワーポイントでメニューも自作した。数ある施策の一つとして、店舗に関するデータの収集を始めたのは、この頃だ。

「それまでは“超”がつくアナログなお店で、パソコンもなければ、POSレジさえない。手切りした食券をもとに、番台のおじさんがそろばんではじき、その日の売り上げを計上する。この店には『データ』の『デ』の字もなかったんです」

手始めに、顧客へのアンケートをもとに、観光客が「伊勢で食べたい料理」を中心にメニューを再考し、食材から仕入先までをすべて一新した。

属人的な勘と経験に基づく経営に、「データ」で終止符を打つ

「僕自身、もともとデータを扱うのが好きでした。数字は決して嘘をつかないし、数字から導き出された答えに偽りはないと信じているからです。ならば、データに基づいて効率的にオペレーションを回していくことが、お店にとってはベストだろうと思ったんです」

経済産業省の調査によると飲食店の廃業事業者数は、2012年2月から2014年7月の約2年半で16万件超え。飲食店の開業率は11.2%、廃業率が24.4%であることから、1年で開業する店舗の倍以上が廃業している計算になる。

「かつてのゑびやがそうであったように、経営者の極めて属人的な経験と勘に基づいた経営は、お店の廃業に直結する原因の一つだと思っています。私たちはそれを解決していく手法として“データ”を選びました」

また、店舗を長く残していくためにも、データの収集は欠かせないのだと小田島氏は指摘する。

「個人の勘や経験は再現性がないため、事業から退いてしまうと経営の基盤がゆらぎやすくなってしまう。その点、データは違う。学べば誰でも扱えるようになります」

さらに、事業に携わるスタッフ全員が、経営者と同じ視点で事業を見るための指標にもなり得る。意識のすり合わせにも、データは役に立つのだ。

気象庁から観光予報プラットフォームまで、可能な限りのデータを“自力”で集め出す

データの重要性を予感した小田島氏は、まずは自力でデータを収集・ストックすることを決意。地道な作業ながら、食券の通し番号をもとに、1日に売り上げたメニューとその数をExcelに打ち込むところから始めた。2013年からはPOSレジを導入し、店舗経営に影響を与えそうな情報を、片っ端から集め出したという。

「気象庁や観光予報プラットフォームなど、営業に関わるデータは可能な限り集めていました。そこから、来客数と天候、注文されるメニューと宿泊者数など、データを組み合わせて相関性を順々に調べていきました」

当時、小田島氏らが相関性を調べていたデータの項目数はおよそ200にも及ぶ。店舗経営を取り囲む状況が数字として可視化され、着実に貯まっていったことにより、客観的な視点で経営を分析することが可能になった。

だが同時に、膨大な量のデータを手動で集めることは、想像以上に骨の折れる作業であることも実感したという。

「店舗のオペレーションを効率良く回していくためにデータを集めだしたのに、肝心のデータ集めに労力を割いていては元も子もない」

そう考えた小田島氏は、データの取得作業のRPA(ロボットによる業務自動)化を推し進めることにした。2016年のことだった。

AIの力を借りた独自のBIツールを開発し、来客予測を行う

効率の良いデータの取得・分析を考えたとき、手っ取り早いのは既存のBIツールに頼ることだろう。しかし、ITベンダーが提供するBIツールは、その会社が販売するプロダクトのみに特化しているケースがほとんど。小田島氏は、その点を懸念していたという。

「例えば、画像解析AIを販売する会社であれば、基本的に画像解析AIのBIツールしか取り扱っていないのが一般的です。しかし、店舗経営のデータ分析は、あらゆるデータとの相関関係を見て成り立つので、単体のデータだけを見ても意味はありません。となれば、複数のツールを使い分ける必要がありますが、個別にログインをして内容をチェックするには相当手間がかかるんですよね」

そして、多くの商業施設で一般化している「手作業」にも小田島氏は疑問を抱いていた。長い時間をかけて手に入れた複数のデータを、一つの資料として見やすくするために、手作業でExcelやPowerPointに打ち直し、会議や経営の場で用いるような状況は、本当に正しいのか。

たった一つのツールで、すべてのデータが網羅できればいいのに——。

小田島氏はそう願い、やがて一つの結論にたどり着く。今まで集めてきたデータをもとに、自分たちでツールを作ってしまえばいいのだと。ゑびやは、システム開発会社の協力を得て、独自のBIツールの開発に踏み切った。AI技術による、来客予測システムの誕生だ。

 

ゑびやが独自に開発した、来客予測ツール

これにより、翌日の1時間ごとの来客数や注文数を約90%の精度で予測できるようになり、数字に応じた適切なオペレーションを回すことが可能になった。会社内でExcelを使うことは、もうほとんどない。

「予測に基づくことで、店頭スタッフの配置に始まり、空き時間に他店舗の応援へ向かったり、事務処理をしたりといったことが事前に決められるわけです。一日に注文されるメニューの数も把握できるので、適切な量の仕込みもでき、お客さんへ配膳するスピードも上がりました。これは食事の効率化、客席回転数の向上にもつながりますよね」

 

「食堂分析」のタブからは、来客の年代やグループ層、地域まで把握することができる

また、毎日の注文数から、どのメニューが、どの時間帯に出やすいのかを把握することで、ロスを生まない適切な量の食材を仕入れられ、大幅なコストの削減も可能にした。

現在は、さらなる業務の効率化を図るため、BIツールと掛け合わせた新たな機能の開発も進めているという。

「例えば、牛バラ肉が1,400g必要なら、その分量の注文を肉屋に自動でFAXする機能があれば便利だなと思ったんです。受注する側にこちらのシステムを強要せず、相手側が利用しているデバイスに合わせて発注できる仕組みを開発しています」

“観光地のどこにでもあるような食堂”だったゑびやを、わずか4年で“データドリブンな飲食店”に変える礎を築いた小田島氏。

では、来客予測を可能にしたBIツールによって、ゑびやは具体的にどのような施策を打ち出していったのか。また、その効果とはいかに。後編では、その詳細を追っていく。

フリーライター。1994年生まれ。学生時代に国際交流事業に携わるなかで、スロバキアに興味を持ち、長期留学を決意。その体験記を旅行メディア「REISEN」で執筆し始めたことをきっかけにWEBメディアの魅力を実感。帰国後は名古屋・東京の複数メディアで本格的に執筆を始め、フリーペーパーの営業・編集を経たのち、フリーランスの道へ。執筆領域はグルメ、ビジネス、スポーツ、ライフスタイルなど。

なかがわ あすか

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