現金を使う人がいない国、スウェーデン──“キャッシュレス先進国”に学ぶ、小売店の決済事情(2)

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現金を使う人がいない国、スウェーデン──“キャッシュレス先進国”に学ぶ、小売店の決済事情(2)

Text : イシダ ユウコ / Editor : 佐々木将史

「キャッシュレス決済の先進国は?」と尋ねれば、一番に挙がるのは中国ではないだろうか。スマートフォンの普及によってQRコード決済が浸透。日本でも、中国発の決済サービスである「Alipay(支付宝)」や「WeChat Pay(微信支付)」を利用できる店舗が急速に増えてきている。

だが、世界を見れば他にもキャッシュレス化が進んでいる国は多くある。前回の記事では、「10年以内に現金が不要になる」と言われるイギリスをレポートした。

本記事では、“キャッシュレス世界最先端の国”とも言える、北欧・スウェーデンの状況をお届けしたい。

対GDP比の現金流通量1.4%の「キャッシュレス社会」

スウェーデンは、実は世界で最もキャッシュレス化が進んでいる国の一つだ。経済産業省の『METI Journal』の特集でも、「現金が消えた国、スウェーデン」として取り上げられている。同省によれば、対GDP比の現金流通量はわずか1.4%(2016年)。19.9%である日本の14分の1だ。

今回、筆者は首都ストックホルムを訪れ、小売店舗のキャッシュレス対応状況、スマートフォンアプリを含めた決済サービスの使い勝手などの調査を行った。

<調査条件>

日時:2019年2月18日〜21日
場所:ストックホルム
対象:コンビニ、スーパー、駅のキオスク、ショッピングモール、デパート、飲食店、博物館(露天商も探したが、当日の天候不順の影響か見つけられなかった)
方法:各調査対象に足を運び、店舗がどのような決済方法を採用しているかを確認。15分滞在するなかで、利用客がどのような方法で決済を行うかを観察する。また、導入されているテクノロジーなどで、日本と異なる点を探る。

ストックホルムにおける「決済」の実態

コンビニ

・pressbyrån

クレジットカードの読み取り機が客向けに置いてあり、ほとんどの利用客がそれでカード払いを行っていた。

セルフレジは、設置の有無が店舗によって異なり、小さな店舗には置かれていない場合がある。大型店に設置されているセルフレジも、筆者が見た際の利用者は少なかった。訪れた時間が混雑時間帯でなく、有人レジが空いていたからかもしれない。

・セブンイレブン

日本のセブンイレブンと店内の様子は似ており、イートインスペースもある。レジには、クレジットカードの読み取り機が常に利用客に向けて置かれてあった。

スタッフも、カードで払うのが当然のように決済をしている。試しに筆者が現金を出すと、少し驚いた顔をされ、「久しぶりに現金を出す人を見た」と苦笑いをされた。

 スーパーマーケット

・ICA

出入り口はゲートになっており、レジを通らないと外に出られない構造。セルフレジが多く設置され、利用客も多数見られる。有人レジもあるが、筆者が訪れたときは一つしか開いておらず、列ができていた。

セルフレジはカードのみ対応。イギリスや日本にあるような、現金対応のものはなかった。

また、ショッピングモールのMall of Scandinaviaにある大型店では、ポータブルスキャナーを使って梱包しながら買い物できる「Selfscanning」も導入されている。

ICAのメンバーズカードが必要だが、高齢者から子ども連れまで、幅広い世代が使っていた。 筆者が訪れたヨーロッパのスーパーのなかでは、最もセルフ化が進んでいるように感じた。

・COOP

大きい店舗であれば必ずセルフレジがあり、利用客も多い。ICAと同じく、現金対応のセルフレジはなかった。また、店内に「店舗カード照会機」のようなものがあり、レシピを探したり、特定の顧客を対象にした割引情報などを見たりできる。

・Hemköp

セルフレジが大量にあり、利用者は非常に多かった。有人レジにも列を作って並んでいたが、購入量の多い客が目立った。セルフレジでは、パンなどバーコードが無いものは自分で1点ずつ一覧から探す必要がある。その手間を考えると、大量の買い物は有人レジの方が楽なのだろう。

Hemköpでは、決済レシートに印字されたバーコードを店舗出口で使用する。そのため、一度入ると、何か買わなければ店から出ることができない。これは将来、無人店舗になったとき大きな問題が生じる仕組みだと感じた。

Mall of Scandinaviaにある大型店では、セルフスキャンの「scan and shop」が導入されていた。

駅のキオスク

ストックホルムの駅には、基本的にコンビニか小規模スーパーマーケットが入っているため、それ以外のキオスクをほぼ見ることがない。

1件見つけたのは、とても小さい店舗で、有人レジが存在しなかった。他のヨーロッパ諸国では、小型店舗にはセルフレジがない場合も多いが、ここでは反対のことが起こっているのだ。筆者の友人によると、人件費が高いため人を多く雇えないことが、セルフレジを発達させた理由の一つではないかという。

ショッピングモール

・Mall of Scandinavia

ストックホルムで最も大きなショッピングモール。このモール専用のスマートフォンアプリがあり、マップや割引情報を見ることができる。

モール内には電子案内板が設置されていた。また、ギフトカードを買える機器もあったが、カード決済のみ対応。

さらに、モールの至るところにソファが置いてあるスペースが設けられ、充電環境も整っていた。VRを使って体験するゲームが置いてあり、多くの子どもたちが楽しんでいた。

・MOOD

外観・内観が、ゴールドとブラックのトーンで統一された高級感あるショッピングモール。電子案内版があり、スマートフォンでQRコードを読み取ると、マップを見ることができる。

デパート

・Nordiska kompaniet

現金で支払いをしている人は見当たらなかった。店内マップはデジタル化されていない。

デパート内にギフトカードを買える機器があり、決済はカードのみ対応。購入したギフトカードの残高もその機器で確認できる。

・Åhléns department store

日本のデパートと雰囲気が似ている。店内マップはアナログのものであった。

単価が高いためか、ほとんどの顧客がカードで決済をしていた。現金で支払いをしている人は見当たらなかった。

飲食店

・マクドナルド

多くの店舗で、注文はタッチパネルからのみであった。パネルにオーダー番号が表示されたら、商品を取りに行く仕組みだ。ヨーロッパの都市の中でも、ストックホルムはこの購入方法が最も普及しているように感じた。

大きな店舗には有人レジも存在するが、ほとんどの顧客は利用していなかった。

・Johan & Nyström – Swedenborgsgatan

訪れたカフェでは、カード決済のみ対応されていた。現金不可の表示はなかったが、店員によると誰も現金で払わないため、案内をする必要がないとのことだ。衛生面からも、店員が現金を触らないのは良いと感じた。

博物館

訪れた写真博物館では、入場料はカード決済のみ可能。博物館内にあったカフェもカードのみ対応だった。

また、プリクラのような記念写真の機械は、コンタクトレス決済(端末にカードやモバイルをかざすだけで支払いが完了する、非接触による決済)でのみ利用できた。日本ではこの類いの機械がキャッシュレス化されている例を見たことがなかったので、驚きであった。

コインロッカー

ヨーロッパで初めて、コインロッカーを見かけた。ストックホルムの治安が良いことと、キャッシュレス化が進んでいるのが理由の一つであろう。利用はカード決済のみ。

公衆トイレ

ヨーロッパで最も不便を感じるのは、どこに行ってもトイレが有料であることだ。加えて、硬貨しか対応していないことが多い。しかし、ストックホルムでは、どこの公衆トイレにもカード決済機器が備わっていた(タッチ式決済のできるクレジットカードのみ対応)。

ヨーテボリでのキャッシュレス化の状況

筆者が見ることができたのはストックホルムの店舗だが、スウェーデン第二の都市・ヨーテボリに留学中の友人にも話を聞くことができた。それによると、スウェーデンでは首都から離れてもキャッシュレス化が進んでおり、特にクレジットカード社会が広がっているとのことだ。

スーパーでも現金は使えるが、ほとんどの人がカードで支払いをしている。それ以外の電子決済(Apple Payなど)を使っている人も見たことがないそうだ。

セルフレジも小規模店にはないが、中規模以上のスーパーなら存在する。友人は「日本より多くの人が使っている」と感じていた。

また、オンライン決済も増えており、多くのスウェーデン人が利用している。よく目にするのは「Swish」というアプリで、送金や割り勘などが行われている。ただし、利用には日本のマイナンバーにあたる「パーソナルナンバー」(個人識別番号)が必要だが、友人は滞在期間が1年以下で番号を取得できないため、同サービスを使えない。「もっと基準を緩くしてほしい」と嘆いていた。

テクノロジーへの順応性が生んだ“最先進国”

キャッシュレス社会の先進国として知られているスウェーデンだが、実際に首都を訪れてみて、世界一進んでいる国なのではないかと感じた。小売店や飲食店ではクレジットカードが主流で、現金非対応の場合も多い。ほとんどの客は、小さい額の買い物でもカード決済を利用していた。

また、セルフレジも多くの店舗にあり、利用率は高かった。イギリスやチェコの大規模スーパーでは、専用のアプリで商品バーコードをスキャンできる「Scan & Go」が取り入れられていたが、普及率は低かった。だが、ストックホルムでは老若男女問わず利用しており、テクノロジーに対する抵抗感の少なさを感じられる。

現時点では、顔認証などのシステムは見受けられなかった。しかし、新しいテクノロジーに対して順応性の高いスウェーデンであれば、そうしたツールの導入や、店舗の無人化などもすぐに受け入れられるかもしれない。