「サブスクリプション」の波は飲食にも。命運分ける“値付け”と“粗利”の考え方──小売&外食のデジタル戦略(5)

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「サブスクリプション」の波は飲食にも。命運分ける“値付け”と“粗利”の考え方──小売&外食のデジタル戦略(5)

Text : 堀部太一 / Editor : 佐々木将史

デジタル化が進んだ現代において、変化し続ける顧客のニーズとチャネル。だが、「どこから」「何に」手をつけて対応すればいいか分からない、という事業者も多いだろう。

この連載『小売&外食のデジタル戦略』では、飲食業や小売ビジネスの流通戦略に詳しい堀部太一氏に、店舗がデジタルシフトの一歩を踏み出すためのポイントについて寄稿して頂く。前回の「ゴーストレストラン」に続く5回目は、同じく飲食業界でも導入が増えつつある「サブスクリプション」モデルの要点を、成否を分けるポイントを交えて記してもらった。

株式会社タイムプロデュースリンク 代表取締役 堀部太一氏
関西学院大学卒業後、新卒で船井総合研究所に入社。当時最年少にてグループマネージャーへ。その後事業承継と起業を行い、京都にて外食・中食の高級業態を展開。「食を通じての豊かさの提供」をモットーに、自ら事業をしながら、多くの企業へのサポートも行う。(NewsPicsTwitter

「サブスクリプション」モデルとは?

様々な業種業態で導入事例が増えている「サブスクリプション」。これは、商品やサービスの利用権を顧客が買い取るのではなく、一定期間の継続利用に代金を支払うビジネスモデルをいいます。

近年は買取型のサービスを提供していた企業においても、サブスクリプションモデルの導入が増えています。有名な成功事例としてはAdobeの『Creative Cloud』(CC)が挙げられるでしょう。

かつて同社のサービスは、顧客がPhotoshopなどの高額ソフトを買取型で購入し、自らのPCにインストールするものでした。アップデートの度に商品が販売されるので、最新の環境を維持するためには、その都度、購入し続ける必要があります。

しかし、「更新のたびに買い直してもらう」ことは難しく、他社に対して優位性を持たせるはずの「最新サービスの良さを感じてもらえない」可能性を孕んでいました。

その課題を月契約のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)型に移行することで打破したのが、CCでした。定額料金になることで入り口の価格が下がり、間口も広がることで多くの新規顧客獲得に繋がったのです。

Adobe Creative Cloud公式サイト「知らないと損!Creative Cloud のキホン」より

特にソフトウェア業界ではこうした動きをする企業が増え、富士キメラ総研の調査によれば、SaaSの市場規模は2022年には6,412億円まで拡大する(2017年比で65.6%増)と見られています。

そのような背景の中、小売業や飲食業でも、サブスクリプション業態として「定期契約型サービス」を追加していく流れが出てきているのです。

サブスクモデルの導入がなぜ増えているのか?

小売業や飲食業のサブスクリプションとして、最近よく話題に上ったサービスといえば、

・『MECHAKARI(メチャカリ)』/月5,800円で洋服借り放題
・『Dyson Technology +』/月1,000円〜でダイソン製品を利用可能
・『野郎ラーメン』/月8,600円でラーメン1日1杯まで
・『coffee mafia』/月3,000円でクイックコーヒー無料 or 6,500円で全ドリンク無料
・『Oisix 定期宅配』/Oisixが顧客ごとにカスタマイズした買い物かごを毎週木曜日に用意

などが挙げられます。こうしたビジネスモデルが採用される理由は、大きく3点考えられるでしょう。

①キャッシュの安定確保

小売・飲食の業界は、年間でも繁忙期と閑散期が出てきます。閑散期は固定費がのしかかり、そのタイミングで前月の支払いがまとめて来ると、黒字であってもキャッシュ不足になります。

定期契約であれば、安定した収入を月々得られます。その観点から、閑散期のキャッシュ確保の目的で導入を検討・実践する企業が多くみられます。

②固定客化の強化

小売・飲食の業界では、来店回数を重ねるごとに次回リピート率が高まる傾向にあります。特に「3回」来店してもらうことがポイントで、ここを超えるか否かによってそれ以降のリピート率に大きな差ができます。

そのため、サブスクリプション化によって期間内来店頻度とリピート率を高め、ロイヤルカスタマー作りを狙いたいというニーズもあります。

③新規顧客開拓

高単価業態や高単価商材の場合、新規の集客ハードルが高く、獲得コストがかさむ傾向があります。サブスクリプションであれば入り口の価格を下げられるので、新規集客数の増加が狙えます。

また、1人あたりの来店頻度が高い業態(居酒屋やカフェなど)の場合、その中でも「出数構成比率」の高い商品(ビールやコーヒー)をサブスクリプションの一つの特典に設けておき、キャンペーンとして新規顧客開拓に繋げる方法もあります。

サブスクリプションが上手くいく飲食業態

サブスクリプションを導入したとしても、上手くいきやすく、他社でも展開しやすい業態と、撤退事例が多く見られる業態があります。飲食業を例に、そのポイントを見ていきます。

サブスクリプションを展開する大前提として、そもそも「顧客にメリットがあるかどうか?」は非常に重要な視点です。自社の利益ばかりを先行させれば、サービス継続率は下がります。たとえば、廃棄間近の商品を安価で出したり、毎回一品無料と特典にしたりすることです。

顧客にメリットが出るようにするには、出数構成比率が高い商品をサブスクリプションの目玉にしておく必要があります。

居酒屋ならビール、カフェならコーヒー、バーならワイン。このように、自店の出数ランキングから「どのカテゴリの出数構成比率が高いのか」、そして「その中でもどの商品の出数構成比率が高いのか」の視点で、お客様が「これなら元を取れる!」と判断してもらいやすいサービスの設計が必要になります。

価格設定のポイント

価格設定にはまず、現状の「平均月間来店頻度」と「客単価」から、「一人当たり平均月間売上」を把握する必要があります。例えば、以下のように計算します。

平均月間来店回数(4回)×客単価(1,000円)=一人あたり平均月間売上(4,000円)

サブスクリプションとしても、この場合は「月額4,000円」を軸に考えていくのが基本です。

そこから敢えて「3,000円台」と金額を下げる場合、既存顧客からの売上が減少します。その際は、「いかに新規顧客数を獲得できるか」であったり、後述の「粗利額を確保できるか」であったりをポイントとして見ていきます。

ただし、新規獲得数が増えたとしても、「予約が取れない」「行っても入店できない」などの問題が生じると定額契約からの離脱要因になってしまいます。店舗キャパシティから適正顧客数を把握しておき、そこから逆算した新規獲得への施策が大切になってきます。

また、逆に「4,000円以上」の価格にする場合は、既存顧客の満足度維持が求められます。来店回数が高まりやすくなる以上、商品・接客・居心地、それぞれの視点で「どうやって飽きさせないか」を工夫し、顧客離脱を防ぐ必要が出てきます。

どちらのパターンであれ一長一短はありますが、「サブスクリプションの導入目的は何か?」を考え、価格を設定することが重要です。

粗利確保のポイント

サブスクリプションをきっかけに集客はしつつ、同時に「いかに総粗利を高められるか」も大切になります。下記は一例ですが、出数構成比が高い商品を定額にすることで集客数を増やし、その他のメニューで粗利を稼ぐイメージです。

・居酒屋:ビール定額 → 食事メニューで利益
・カフェ:コーヒー定額 → スイーツメニューで利益
・バー:ワイン定額 → おつまみメニューで利益

居酒屋を例に、もう少し具体的に見ていきます。通常来店であれば、下記のような粗利構造になります。

そして飲料を月額4,000円(8杯:約3〜4回の来店で元が取れる)のモデルでサブスクリプションにした場合、下記のような粗利構造となります。定額分の売上を除くと、当たり前ですが1回の来店あたりの粗利額は減ります。

これを基準に下図のように来店回数別での粗利変化を見ると、月間3回までの来店で収まれば粗利額は通常来店よりもむしろ増え、逆に月間4回以上であれば減少します。しかしながら、仮に毎日来店があったとしても食料の売上で粗利を稼ぐことができる分、粗利率は悪化しますが、粗利額の最大化をより狙いやすくなります。

(サブスク粗利=1回あたり粗利×来店回数+定額売上4,000円)

もちろん、飲料の杯数が増える可能性もありますし、食料のオーダーが減る可能性もあります。上記の図はそこが変わらない前提であり、簡略化した試算にはなります。

大切なのは「定額の売上以外に、稼ぐ要素を持っているかどうか」。あくまでも、ここをポイントとして見ていただければと思います。

サブスクが難しい業態も。どこで利益を確保するか見極める

逆に、サブスクリプション化が難しいのは、「粗利ミックスのしづらい単一商材」を売る業態です。例えば、牛丼、ラーメン、うどんなどが挙げられます。

これらの業態を支えるのは、来店回数の多いリピート顧客です。定額モデルにすると、このロイヤルカスタマーがそのサービスに流れ、単純に売上を落としてしまう可能性があるのです。

実際に、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)と呼ばれる数値を見てみましょう。サービス業では、この最大化を狙うのが基本です。

LTV=平均単価×年間平均来店回数×平均継続年数×粗利率

上記の公式で見た際、単一商材の場合では「年間平均来店回数」と「平均継続年数」の大きいロイヤルカスタマーが全体のLTVを高めてくれます。この顧客層が定額サービスを利用し、来店回数が一定基準を超えると、単純に原価負担が大きくなります。粗利ミックスもできないので、来店が増えるだけ利益が減るのです。

仮に下限価格が「300円」で、原価率30%のうどん店があるとします。そして定額の金額を、週2回来店で元を取れる月間8回分の「2,400円」で設定したとしましょう。

その場合、粗利ミックスがないので、単純に粗利の分岐点は「8回」です。それ以上の来店が増えると、本来高まって欲しい粗利額がどんどん減っていきます。

このように単一商材を定額モデル化すると、単純な値引きになってしまって粗利が減少してしまう。ここはサブスクリプションを導入するときに、絶対に気をつけたいところです。

定期契約型のビジネスも、決して“魔法の杖”ではありません。大切なのは、自分たちが導入する目的は何なのか。そして、仮にロイヤルカスタマーが通常来店から離れてサブスク利用者になったとしても、事業モデルとして粗利を確保できる商品マーチャンダイジングになっているかどうか。ここをポイントに、上手く導入を進めることが重要です。