日本進出のAI企業「Standard Cognition」– 無人決済を実現させる新たなテクノロジー

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日本進出のAI企業「Standard Cognition」– 無人決済を実現させる新たなテクノロジー

Text : 佐々木 将史 / Editor : 吹原紗矢佳

独自のテクノロジーを用いて、AIによる無人決済システムを開発している企業がアメリカのStandard Cognition(スタンダード・コグニッション)だ。Amazonが展開を始めた「Amazon Go」、中国の無人コンビニ「BingoBox(繽果盒子/ビンゴ・ボックス)」など、世界で店舗の無人化が進む中、同社はカメラのみを使った技術でこの市場に参入しようとしている。

自社展開にこだわらず、「あらゆる規模の小売業者」に向けたサービスを提供しようとしている彼らは、どんなシステムを開発しているのか。注目が集まるStandard Cognitionの技術を分析しつつ、日本進出を果たした同社の戦略を紐解く。

“魔法の”決済システム「Standard Checkout」

Standard Cognitionは、2017年にサンフランシスコで創業したAI企業だ。アメリカの無人店舗開発においてAmazon Goのライバルと目されるスタートアップの一つで、2018年11月には4,000万ドル(約45.4億円)の資金調達も完了。累計の調達額を5,110万ドル(約58億円)に到達させるなど、急速に勢いを増している。

公式サイトより

同社が2016年から開発してきたシステムが、レジ無し店舗を実現させる「Standard Checkout(スタンダード・チェックアウト)」だ。店舗において顧客が決済を意識することのない、“フリクションレス(手間がかからない)体験”の提供を目指している。

このシステムが導入された店舗では、顧客は入店時にスマートフォンのアプリを起動させ、チェックインのボタンをタッチするだけで買い物ができる。商品を手に取ったあと、バーコードをスキャンする必要もない。店の外に出れば自動で決済が完了し、レシートがEメールで顧客に送信される。

Standard Market – powered by Standard Cognition

サンフランシスコ市内には、Standard Checkoutを使用した直営店第1号「Standard Market(スタンダード・マーケット)」が9月にオープンした。まだ実験店舗ではあるが、創業者でCEOを務めるJordan Fisher(ジョーダン・フィッシャー)氏は、「常に新しい機能を弊社のレジ無人化システムに追加していく方針で、お客さまに“レジの無人化という魔法”を体験していただける場を提供できることにワクワクしています」とコメントしており、今後の展開に意欲的な姿勢を見せている。

追跡システムの核は「顔認証なし」のAIカメラ

Standard Checkoutにおいて、天井に設置されたAIカメラが店内にある商品の形状やパターンを学習した上で、入店客の動作をトラッキングする。同社によると、99%の精度で購買内容を見分けられ、視線や歩いた軌道、足取り、速度などから盗難の兆候も認識できるという

Amazon Goは天井だけでなく棚の内側などに多数のセンサーが必要だが、Standard Checkoutではより少ない台数のカメラだけでレジ無し店舗を実現できる。実際にStandard Market(面積185.8㎡)で使用されているカメラは27台で、これは店舗あたり3,000〜5,000台とも言われるAmazon Goの100分の1以下である。

初期の導入コスト削減や、大胆な売り場レイアウトの変更、タイムセールといったスポット需要の陳列へも柔軟に対応できる点は、同システムの大きな特徴と言えるだろう。

また、Standard Checkoutを利用することで、店舗運営者は「匿名化された」顧客分析データを手にできる。顔認証は行われていないため、顧客情報を保護する観点からも導入しやすくなっている。

同社は開発戦略として、「あらゆる規模の小売業者」がAmazonなどの大手チェーンやオンラインサービスと競合できるようサポートしていくことを掲げている。システムの精度はもちろん、オペレーション負荷の少なさ、運営の効率化が証明されれば、既存の小型店舗への導入は加速していくかもしれない。

明確な日本への進出戦略

少子高齢化で労働力不足が懸念される日本は、同社が着目している市場の一つである。今年6月に日本法人であるStandard Cognition合同会社を設立し、7月には株式会社PALTACとの提携を発表した。PALTACは取引メーカー数1,000社以上、顧客にドラッグストアなどの小売店40,000以上を抱えている日本最大手の化粧品、日用品、一般用医薬品の卸売企業だ。

Standard Cognitionは、PALTACの物流拠点と、パートナーである小売店舗に同社のシステムを提供していくとしている。店舗決済においてはアプリ内だけでなく、現金、クレジットカード、交通系ICカードのいずれも使えることから、店舗側の決済ニーズへ柔軟に対応できそうだ。

公式サイトより

日本進出に際して、Standard Cognitionの共同設立者でCOOのMichael Suswal(マイケル・サスワル)氏は、日本にはこれまでレジ無し店舗を実現させるシステムに関して、魅力的な選択肢がなかったと述べ、Standard Checkoutの普及に自信をのぞかせている。

すでに10月には、PALTACによるシステムの販売開始と、ドラッグストア「薬王堂」仙台泉館店(宮城県)での実証実験を2019年に始めることが公表された。また、早期に日本で3,000店の導入を目指していくという。2社のタッグは、今後国内の小売市場に大きな影響を与えていくに違いない。

新しい決済で、顧客体験の向上を

決済テクノロジーを店舗に導入することは、今や世界でのトレンドとなっている。そうした流れに乗り遅れがちな日本ではあったが、最近はJR東日本が赤羽駅でAIによる無人決済店舗を開設、さらにクリスプ・サラダワークスがアプリを用いた完全キャッシュレス&セルフレジ店をオープンさせるなど、徐々に実験店舗も登場している。

最先端の技術は、初期投資のコストなどが導入時のハードルになりがちだ。しかし、Standard Cognitionのように、小型店舗でも運用しやすいシステムが開発されていけば、一気に導入が進む可能性はある。省人化を進めたい日本には、とりわけメリットが大きいだろう。

ただし、効率だけを目的にしてはならない。決済テクノロジー導入の本質は、あくまで顧客体験の向上にある。取得したデータを元に商品やサービスの改善に繋げられるか、そして顧客にとって価値のある店舗体験を届けられるかが、さらに小売企業へ問われていくだろう。技術進歩を取り入れつつ、各々の事業に合わせた戦略を描くことが求められている。