ECはなぜ今、実店舗を求めるのか?ウツワ、6curry、BASEから読み解く「オンラインとオフラインの融合」

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ECはなぜ今、実店舗を求めるのか?ウツワ、6curry、BASEから読み解く「オンラインとオフラインの融合」

Text : 佐々木 将史 / Editor : 吹原紗矢佳

EC発の企業がいま、インターネットの世界にとどまらず、実店舗への展開を始めている。

小売業においてECは、立地を考えずに顧客を呼び込める点、実店舗に比べて出店料や人件費などのコストを抑えられる点が大きなメリットだ。それにもかかわらず、なぜ非効率とも思える施策を進めるのか。

国内のいくつかの事例を紹介しながら、小売の現場で起きている変化について考察し、オンラインとオフラインが融合していく先を探る。

いまだ成長途中のEC市場。課題は「顔」が見えないこと

インターネットの普及と共に歩みを始めたEC。その現在のBtoC領域における国内市場は、経済産業省のデータによると16.5兆円(2017年)。前年比で9.1%増の成長を見せており、2011年の8.4兆円と比べると倍近くになっている。

店舗まで買い物に出向く手間を省け、豊富な商品ラインナップから選べるECの利便性は、顧客にとって大きな魅力だ。実店舗を運営する企業にとっても、ECは自らの「未来を脅かす存在」であると同時に、売上を裏で支える「新チャネル」として期待が持てる分野だ。

経済産業省「電子商取引に関する市場調査」より

急速な成長に目を奪われがちなEC市場だが、小売業全体で見ると決して大きくはない。物販系分野におけるEC化率(すべての商取引の内、ECが占める割合)は2017年で5.79%に留まり、消費者の多くはまだ「実店舗での購入」を主にしている。

その理由は、キャッシュレス決済や受け取りの手間などが考えられる。だが、特にECから立ち上がった企業にとっては、大きな課題といえる要因が一つある。

それは、商品を手にするまでの「体験」に乏しいことだ。

選ぶ際に楽しく会話したり、買ったあとでワクワクしながら家路についたりする経験がECでは得にくい。ECでは商品の実物はもちろん、「顧客の顔」や「提供者の顔」も互いに見られず、せっかくの買い物が一人ひとりの記憶に残るような体験へと結びつきづらいのである。しかし、購買時のリアルな体験は、モノが溢れる現代で「指名買い」を呼び、ひいてはファンとなってもらうためにも重要だ。

そうした背景から今、ECのみの販売から実店舗へと進出を狙う事業者が登場しつつある。国内で展開する事例を3つ紹介しよう。

顧客との接点を志向し、リアルへ進出する「ウツワ」「6curry」

株式会社ウツワは、2015年に創業したアパレル企業だ。代表取締役のハヤカワ五味氏が立ち上げたブランド『GOMI HAYAKAWA』を始まりに、ランジェリーの『feast』やワンピースブランドの『ダブルチャカ』など、ECを軸にして複数のラインを展開している。

公式通販サイト『LAVI SHOP』より

痩せている女性のためのメディア『LAVISH GIRL』も運営するなど、インターネットを中心にファンを獲得してきた。一方で、2015年5月以来、ポップアップショップを数回に渡り出店。そして2018年2月、正式に『LAVI SHOP』常設直営店をラフォーレ原宿にオープンした。

実店舗への進出に際してハヤカワ氏は、自身の『note』で、かつて自分もラフォーレに通い、出店されているブランドに憧れていたという原体験について記している。商業施設の店舗となると、固定費などの支出に加え、営業時間の制約やスタッフの雇用もハードルとなる。それでもウツワのブランドに憧れるファンのために出店を決意したという。

『楽天EXPO2018』の講演でも自ら語った「お客さま自身も気づいていない気持ちの代弁」「お客さま自身も知らない解決方法の提案」を実現していく場として、ECだけでは実現できなかった新たな顧客との関係性づくりへの志向がうかがえる。

6curry・公式サイトより

2017年12月に立ち上がった『6curry』は、“カレーを使って「世界を混ぜ合わせる」”を目指すプロジェクトだ。株式会社ニューピースが運営している。

事業の中心は「サラダ感覚で食べる、カップカレー」の販売。創業当初は「UberEATS」専門店としてインターネット注文のみで商品を届け、メディアでも話題を集めた。

その後、「UberEATSだけでは顧客の顔が見えない」ことへの違和感から、2018年8月に実店舗『6curryキッチン』を立ち上げるべくクラウドファンディングを開始。目標の1.5倍、154万円を達成し、9月から店舗をオープンさせた。

6curryキッチンは完全会員制で展開されており、店舗の情報は非公開だ。カップカレー以外にもスタンダードなカレー、カレー味のスイーツ、開発中の「飲むカレー」などを提供する予定で、“カレーを通じてコミュニティを作る”ことに挑戦していくという。また今後は、フードトラックでの販売も予告されている。

販売効率だけなら、UberEATSのみで展開すればいい。あえてキッチンやトラックといった場を設けるのは、まさに顧客と6curryが互いの「顔」を知り、より密度の濃い関係をきずくためのものだと言える。

ECプラットフォーマーが生み出した「SHIBUYA BASE」

実店舗への進出を狙うのは、小売ECだけではない。

オリジナルのECサイトをつくれる『BASE』、ID型の決済サービス『PAY ID』などを運営するBASE株式会社は、2018年4月に株式会社丸井グループとの資本業務提携を発表。6月には渋谷マルイの1Fに、『SHIBUYA BASE』を誕生させた。

SHIBUYA BASE・公式サイトより

BASEは2012年にリリースされた、ECサイトを簡単に開設できるサービスだ。ウェブサービスに不慣れなユーザーも使いやすい点から口コミなどで支持を集め、今年9月に開設数60万ショップを突破した

新たにオープンしたSHIBUYA BASEでは、ショップオーナーが日程と商品ラインナップを考えるだけで、渋谷マルイ店での販売を経験できる。店舗運営に必要な什器・決済端末はもちろん、販促に必要なデジタルサイネージなども準備されており、1日あたりの出店料以外に費用は不要。数日間といった短期出店も可能だ。

BASE社は同スペースの運営にあたり「小さなブランドのファンづくり」を掲げ、“5つのE”(Engagement、Empowerment、Experience、Exchange、Easy)を目指すとしている。実店舗の運営支援を通じて、オンラインとオフラインの垣根をなくした売買を実現すること、各ショップがブランドの魅力を伝え、ファンと友好な関係をつくることなどが目的だ。

オンラインのプラットフォーム運営者が、このように各事業者のオフライン展開を支援していく形も、今後は増えていくだろう。顧客との関係性の構築をどれだけ応援できるかが、プラットフォーマーとして選ばれる一つの価値になっていくと予想される。

オンラインとオフライン、その融合の先に

EC事業者のリアル進出は、ようやく国内で本格化し始めたばかりだ。その目的は必ずしも、実店舗からの直接的な売上とは限らない。

実店舗で認知してくれた顧客を新たにオンラインへ導くことはもちろん、オンラインでしか繋がっていなかった顧客とリアルで繋がり関係性を深めること、「体験」としての売買の場をつくることなど、さまざまな効果が期待できる。

一方で海外に目を向けると、米国のAmazonが運営を開始した無人店舗『Amazon Go』、中国のAlibaba Group(阿里巴巴集団/アリババ・グループ)が急速に拡大させている『盒馬鮮生(フーマー・フレッシュ)』など、やはりEC発の大手企業が店舗をつくり、話題となり始めている。これらは最先端のテクノロジーを用いており、新たな顧客体験を生み出す場として注目の的だ。

華やかさに目を惹かれるが、どちらの事例でも見るべきポイントは変わらない。「いかに顧客を満足させることができるか」に尽きる。

日本でも政府がキャッシュレス化を進める姿勢を見せており、今後さらにオンラインの市場は拡大すると予想される。それは決して、「ECか実店舗か」という奪い合いを促す話ではない。必要なのは、オンラインとオフラインを融合させ、顧客にとっての「体験」の価値を最大化していくことだ。

チャネルを超え、常に顧客との関係性を構築していくことが、これからの事業者には求められていくだろう。