“OMO”が崩すスターバックスの牙城!中国コーヒー市場を一変させた、新星Luckin Coffeeの戦略に迫る

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“OMO”が崩すスターバックスの牙城!中国コーヒー市場を一変させた、新星Luckin Coffeeの戦略に迫る

Text : 江原ニーナ / Editor : 佐々木将史

2018年7月、中国のコーヒー業界をリードするスターバックスと、Alipay(支付宝/アリペイ)を始めとする中国IT市場のインフラを築いたAlibaba Group Holdings(阿里巴巴集団/アリババ・グループ)が提携を発表した。両者は、オンラインとオフラインの融合に加え、ビッグデータのさらなる活用により「中国のコーヒー業界に変革を起こす」と述べて話題となった。

しかし、本当に注目すべきはその裏側にある。現在急成長中のコーヒー販売スタートアップ、Luckin Coffee(ラッキン・コーヒー)の存在だ。

本記事では、双方の戦略を紐解きながら、オンラインとオフラインの融合がどのように市場を変化させていくのかを考察する。

創業10ヶ月で1000店舗を展開した「Luckin Coffee」の実力

日本国内ではまだ馴染みのない名前だが、Luckin Coffee(以下Luckin)といえば、中国のミレニアル世代では急速に認知度を高めているコーヒーチェーンだ。同社のCEOである銭治亜氏は、中国国内大手のレンタカー企業CAR Inc.や、ライドシェア大手のUCAR社でCOOを務めた経験を持つ。

(画像:Luckin Coffee公式サイトより)

Luckinの創業は2017年11月。その後、2018年の年明けには早くも北京と上海でサービスを開始し、ローンチからわずか4ヶ月で約500万杯のコーヒーを売り上げている。さらに7月には、同社初の資金調達で2億ドル(約220億円)の出資を受け、時価総額は10億ドル(約1,100億円)に到達。圧倒的な速さでユニコーン企業の仲間入りを果たした。

また、公式な発表ではないものの、次のラウンドではさらに2〜3億ドルの調達を計画しているほか、香港やニューヨークでのIPOを視野に入れていると『REUTER(ロイター)』が報じている

(画像:Luckin Coffee公式サイトより)

同社の著しい成長の背景には、従来のコーヒー業界にはなかった独自の戦略がある。

まず、商品の注文方法に着目すると、独自のアプリからのオーダーにのみ対応しており、決済も同時に完了。来店の際には、注文時に送られてくるQRコードを表示すれば商品を受け取れる。つまり店頭での受付が一切行われておらず、現金も介することはない。

また、デリバリーでの受け取りにも対応している。中国では現在、配達サービスの需要が急速に拡大しており、Luckinも事業成長の核として目をつけていたのだろう。『BUSINESS INSIDER JAPAN』によると、中国フードデリバリー産業の市場規模は2010年にはわずか586億元(約9,750億円)だったが、2015年には2,391億元(約3兆9,850億円)に到達。さらに2018年には6,619億元(約11兆円)に達すると予測されている。

(画像:「TechinAsia」より)

Luckinは初期からロジスティクス業者であるSF Express社と独自契約を結んでいる。『REUTER』によれば、平均で18分以内に商品配達を行うそうだ。

顧客へのリーチ拡大のため「アプリのダウンロードでコーヒー1杯無料」や、「友達をアプリに招待して1杯無料」といったマーケティングも実施。さらに、ユーザーが周りの人の分まで購入することを想定した「2杯買うとさらに1杯無料」「5杯買うとさらに5杯無料」という戦略により、「最初の1杯」へ触れられる機会を増やし、顧客の獲得と定着を狙っている。

急成長の鍵となるOMO戦略

Luckinは、新たなスタイルによって中国顧客の生活スタイルに溶け込み、現在のように成長した。この戦略こそが、CEOの銭治亜氏が注目する「OMO(Online Merge Offline)」である。

OMOは、オンラインとオフラインの融合を指す言葉だ。シンガポールの新聞社『TODAY』の報道によると、同氏は「今後人々を惹きつける上でOMOが鍵になる」と述べたという。実際に同社は、従来型のカフェに加え、ピックアップ専用店舗、デリバリーに特化した店舗の3種類の運営スタイルを取り、スマホを介することでオンラインとオフライン上の行動をシームレスに繋げようとしている。

(画像:AppStoreより)

OMO戦略の本質は、オンラインとオフラインを繋いだ先にある。従来の顧客行動は、店に足を運んで、列に並んで商品を注文し、会計をして受け取るという流れに限定されていた。それがOMOの導入により、カフェでゆっくりコーヒーを楽しむ、出かけた先でピックアップする、オフィスや自宅に届けてもらうなど、その時々のニーズに合った選択が可能になる。つまり、OMOは顧客体験を多様化し、向上する戦略なのである。

日本でも近年、「モノ」から「コト」への消費シフトが指摘されている。中国の小売業界においても、商品の提供だけでなくテクノロジーを活用した「顧客体験」という付加価値が求められるようになっていると考えることができる。

転機を迎えたスターバックス。顧客層に表れた戦略の違い

Luckinの勢いに押され、中国のコーヒー市場では従来型の店舗販売からの転換が見られ始めた。その一つの象徴が、冒頭に触れた最大手スターバックスとAlibabaとの提携だ。Alibaba傘下の「Ele.me(餓了麼)」を使ったデリバリーが開始されるなど、Luckinを後追いする戦略が伺える。

(画像:スターバックス「Newsroom」より)

だが、スターバックスはLuckinに比べ、いくつかの点で不利な要素もある。

まず、価格設定が比較すると高い。例えば、トールサイズのカフェラテを注文した場合、Luckinは24元(約380円)で提供されるのに対し、スターバックスでは31元(約500円)だ。頻繁に飲む人にとって、この差は大きいだろう。品質の違いなど、価格差を乗り越えるポジティブな要素を打ち出す必要がある。

また、顧客層の違いも影響しそうだ。『Technode』によると、当初からテクノロジーを前面に打ち出したLuckinの顧客は70%以上が「30歳以下」、ホワイトカラーのミレニアル世代である。これに対し、スターバックスは年配層の顧客も多く、30歳以下の人々が顧客全体に占める割合は約50%にとどまっている。アプリ決済やデリバリーへの対応で後れを取っているスターバックスが、オンラインを絡めた戦略へスムーズに移行するには課題も多そうだ。

(画像:スターバックス公式サイトより)

『South China Morning Post』によると、スターバックスは今年の終わりまでに、中国で新たに30都市の約2,000店舗でデリバリーに対応し、2022年までに3,000店舗を新しくオープン、収益を3倍に伸ばす計画を発表した。対するLuckinは今年の終わりまでに、新たに2,000店舗以上でサービスを開始すると述べている。

注文から受け取りまでの「利便性」と、決済を含む一連の「スムーズさ」を実現し、主たる顧客であるミレニアル世代のニーズを掴んだLuckin。幅広い顧客層を抱えるスターバックスが巻き返しを図るには、同社ならではの一手も必要となるだろう。

未来の中国コーヒー業界を率いるのは?

Luckinの成長は著しい一方で、競合企業を一気に凌駕してスターバックスを二番手に、という未来を描くのは性急かもしれない。スターバックスが手を組んだのは、中国の情報産業を牽引してきたAlibabaである。これまでに蓄積されている情報量は計り知れない。

スターバックスがこの提携により、すでに配達サービスを開始したことは述べた。ほかにも、C2CのEC「Taobao(淘宝網)」や決済のAlipayに加えて、B2CのEC「Tmall(天猫)」、O2Oサービス「Koubei(口碑)」などを活用して顧客の注文チャネルを増やすと発表。OMO戦略に本腰を入れ始めた証であろう。

(画像:スターバックス公式サイトより)

中国コーヒー市場をめぐる両者の熾烈な争いはまだ始まったばかりである。Luckinの初速は著しいが、一度熱が冷めた時にどれほどの顧客を囲い込めているのかは未知数だ。スターバックスが新たな戦略で巻き返しを図り、王者の地位を保持する可能性も十分にある。

勝負の行方は今は判断できないが、両者の競争に目を凝らすことで、顧客のニーズを捉え、小売の未来を予測する手がかりが得られるかもしれない。