「売れる商品」をリアルタイムで把握。AIツールが導く“パーソナライズ接客”の近未来

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「売れる商品」をリアルタイムで把握。AIツールが導く“パーソナライズ接客”の近未来

Text : なかがわ あすか / Editor : 佐々木将史

店頭のアイテムに目を惹かれ、予定になかった買い物をした経験はないだろうか。店内ディスプレイの良し悪しで、その日の売り上げが大きく変わることもある。「視覚」が顧客の購買意欲にもたらす影響はとりわけ大きいように思う。

これに目をつけ、顧客ごとのニーズやトレンドに合わせ、店内ディスプレイの最適化を実現しようとする海外スタートアップがある。イスラエルに本社を置くMystore-E(マイストア・イー)だ。

同社開発のAIプラットフォーム『Mystore-E』を使えば、「明日最も売れる商品」を予測することも可能だという。導入のメリットを「店舗」「顧客」の両視点から見据え、顧客データに基づいた“パーソナライズ接客”の重要性に迫る。また、世界のみならず日本でも起きつつあるこの変化の事例も取り上げる。

小売店にAI×デジタルディスプレイでデータを活用

Mystore-E公式サイトより

Mystore-E社は、2017年にイスラエルのテルアビブで設立された。すでにシードラウンドで220万ドル(約2億5,000万円)の調達に成功。米国のダイヤモンドジュエリーブランド「Signet Jewelers(シグネット・ジュエリーズ)」と独占パートナーシップを結ぶなど、勢いを増している。

開発するMystore-Eは、導入店舗の製品データを集約し、顧客ごとのニーズに合った商品を予測。その情報をスマホアプリを介して各店員に伝えると同時に、店内のデジタルディスプレイには天候や時間帯から判断した「売れやすい商品」の画像を表示できるという。

Mystore-Eを搭載したデジタルディスプレイには、AI搭載の画像解析カメラが埋め込まれており、性別や年齢などの顧客属性を把握することも可能。さらに拡張現実でのファッションアイテムの試着機能が実装されている。

公式サイトでは具体的に述べられていないが、「22歳の女性が商品Aを30秒間試着し、その後に商品Bを20秒間試着」といったデータも継続的に蓄積できるのではないだろうか。

私たちの目標は、小売店に役立つパーソナライズなショッピング体験を創造し、顧客の要望、ニーズ、スタイルの好みに対応することだ
VentureBeatより、筆者翻訳)

同社のCEOであるAsaf Shapira氏はこう述べ、小売店、買い物客の双方にとってメリットのある購買体験を実現しようとしている。

小売店/買い物客が『Mystore-E』を利用するメリットとは?

Mystore-Eを導入することにより、ユーザーはどのようなメリットを享受できるのだろうか。小売店、買い物客の両視点から考察してみる。

Mystore-E公式サイトより

〈小売店側のメリット〉
まず挙がるのは、顧客ごとのニーズに寄り添った接客が可能となることだろう。全スタッフが、顧客に人気のある商品をスマホアプリからリアルタイムで把握できるようになった。裏付けのあることで、店員が自信を持って接客に臨むことも期待できそうだ。

店内に設置されたAIカメラ搭載のディスプレイからは、その日の天気や曜日、時間帯ごとに来店する客数、客層といったデータを収集することで「明日最も売れる可能性が高い商品」も予測できる。これまで勘と経験に頼っていた販売予想がデータとして可視化されることで、店内のディスプレイ変更や、接客への工夫を最適化しやすくなるに違いない。

これまで各店舗のPOSレジから収集されたデータは、本社で一括管理されることが一般的だった。販促に関わる情報(どの商品が、どの客層に人気かなど)は、本社からエリアマネージャーなどを通じて各店舗に伝わるケースが多く、時間がかかっていた。

Mystore-Eを利用すれば、その情報を各店舗が直接得られるため、伝達の手間をカットし、情報の鮮度が落ちることも防げる。各店舗は適切なタイミングで、適切な販売促進に乗り出せるのだ。

Mystore-E公式サイトより

〈買い物客側のメリット〉
店舗が自らのニーズに合いそうなアイテムを勧めてくることで、顧客はより満足のいくショッピングに近づけるだろう。レコメンド機能がついているECと、実際に商品を手にできる実店舗、双方の良いところ取りな買い物ができるのだ。

さらにMystore-Eが提供する店内ディスプレイでは、拡張現実でファッションアイテムを試着できるので、試着室が空くのを待ったり、服を脱いだりする必要もなくなる。同じアイテムの色違いを試したいときも、画面をタッチすれば一瞬で切り替わる。試着室を往復せずとも、似合う服を見つけやすい。

顧客データに基づいた、“パーソナライズ接客”の盛り上がり

Mystore-Eのように、顧客データを活用し、“パーソナライズ接客”に役立てている事例はほかにもある。

フランスの化粧品ブランドSephora(セフォラ)社は、『Color IQ(カラーアイキュー)』というシステムを使用。顧客の肌をスキャンしてデータ化することで、似合いやすいファンデーションを提案している。

また、顧客は店舗またはオンライン上で「Color IQ number」を取得でき、店頭でその番号を伝えるか、サイトで入力するだけで、自分の肌に適した化粧品も購入できるという。

店舗側も顧客ごとの肌データを持っておくことで、適切な商品を案内しやすくなる。新製品の開発にも役立つかもしれない。

MemoMi公式サイトより

アメリカのMemoMi(メモミ)社の『Memory Mirror(メモリー・ミラー)』は、服の試着姿やメイクアップの360度動画を撮影できるデジタルミラーだ。

顧客は服を脱がずにファッションアイテムの試着が可能になるほか、店頭で受けたメイクアップの録画をスマホに送ってもらうこともできるそう。どの部分に、どの化粧品を、どのように使用したかが動画で分かるため、顧客は家に帰ってからも自分でプロ級のメイクアップを学べる。

店舗側も、どの顧客に、どの商品を使って、どのようにメイクを施したかを記録しておけるため、再来店時に商品の紹介がしやすくなるのではないだろうか。

Memory Mirrorは、GINZA SIX(ギンザ・シックス)に入る化粧品ブランド「SUQQU(スック)」にも導入されている。顧客は店頭で受けた「顔筋マッサージ」の動画をスマホに転送してもらえるという。

海外では徐々に浸透しつつある、顧客データを活かした“パーソナライズ接客”。日本でも同様に普及が進むだろう。

注目すべきは、以前はECのみで実現可能だった顧客体験が、実店舗でも提供できるようになっている点だ。店頭業務から取得したデータを活用するゑびや完全キャッシュレスを実現したクリスプ・サラダワークスといった小売店舗の変革が、国内でも見て取れる。企業全体だけではなく、今後は顧客と販売員の関係性においても変化が訪れることが見えてきた。