小売業界はデータで変わるか?データ活用が生み出す、新たなリアル店舗の姿

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小売業界はデータで変わるか?データ活用が生み出す、新たなリアル店舗の姿

Text : おぐら まみ / Editor : 吹原紗矢佳

顧客の行動がオンライン化することにより、より多くのデータが取得し得るようになった。しかしそのデータは十分に活用されているだろうか? データの活用は、取得した顧客の属性やアクセス履歴などを使って広告を一方的に表示するような方法だけに留まらない。重要なのは循環だ。データの活用は製品開発や顧客体験にも変化をもたらし、また新たなデータ取得へと繋がる。

では、データの循環とは一体どんなものか? より良い循環を起こすためにはどうしたらいいのか? 国内外の事例を交えながら紹介していく。

ブランド価値を急速に高める、データの好循環

10年前の世界を思い出してほしい。

2008年、AppleのiPhone 3Gが日本国内でも販売されることとなったが、iPadはまだ存在もしなかった。Amazonでは、Amazonプライムの提供やKindleの発売がようやくはじまったばかりだ。

『BrandZ Top 100 Most Valuable Global Brands Ranking 』(世界のブランド価値ランキング)の2018年版のランキングでは、テクノロジー企業が上位の多くを占めているが、ここで同ランキングの2008年版と比較してみよう
Appleは7位、マクドナルドは8位と並んでいたのが、2018年版では倍以上のスコアでAppleが2位につけている。Amazonは2008年版では61位にようやく入っている程度だが、2018年版では3位に躍進している。

テクノロジー企業が古くからある大企業のブランド価値に比べて急激な高まりを見せたのは、単に技術の向上によるものではない。その理由のひとつが「データを活用した好循環」にある。

AppleやAmazon、またFacebookやGoogleといった企業は、従来の大企業とは異なりエンドユーザーから収集したデータを製品開発へ回すことができる。データを利用して製品を改善することは、より優れた顧客体験を提供し、ブランドのロイヤルティーを高める。すると、顧客は喜んで同じブランドから購入し、また新たなデータが提供されるというサイクルが生まれるのだ。

こういった「データの好循環」は、テクノロジー企業に限った話ではない。それを活かした小売の現場を見ていこう。

Amazonのリアル書店に見る、ECデータの活用

書籍のオンライン販売にはじまり、今となっては日用品からダウンロード商品までありとあらゆるものを取り扱うECに成長したAmazon。本社のあるシアトルに実店舗である「Amazon Books」1号店をオープンしたのが2015年のことだ。2018年時点で16店舗を展開し、今後も拡大を予定している。

Amazon Booksでは、オンライン販売でのデータを活用して売り場がつくられている。

従来の書店では、目立って陳列されるのは新刊やメディアで話題になっている書籍だ。しかし同店では、Amazonレビューで評価の高い書籍や店舗のある地域で人気のある書籍のデータをもとに陳列されている。

本の内容を紹介するPOPは、出版社や店員によるものでなく、Amazonレビューのコメントだ。

他にも、Kindleで3日以内に読まれた書籍や、内容が多くハイライトされた書籍など、電子書籍ならではの収集データを活用した陳列も行われている。

Amazon echoはじめ、生活に密着したデバイスでもデータ収集を加速させている

次に、国内での事例を見ていこう。

Flicfitのリアル店舗×データ活用レコメンド

想像してみてほしい。

あなたは靴を買いに店舗を訪れると、気になるデザインのものを見つけた。自分と同じサイズの靴を試着すると……ぴったりと合うこともあれば、そうでないこともあるだろう。

たとえ同じサイズが表記された靴でも、寸法や形状はメーカーごとに異なる。人間の足も同様で、人によって幅や厚みはそれぞれだ。

自分の足にぴったり合う既製の靴を探すために、これまで顧客はたくさん試着するしかなかった。これを解消するとして注目されているハードウェアがFlicfitだ。

Flicfitは、まず店頭の高精密3Dスキャナーで足を計測する。すると、あらかじめ計測・登録されている靴の内寸データと、顧客の足を独自のAIアルゴリズムでマッチングし、ぴったり合う靴がリコメンドされる。

顧客は、気に入ったデザインを試着して一喜一憂することから、仮想試着した上でリコメンドされた中から好みのものを探すという新しい購買体験を得られるのだ。

こういったサービスが普及すると、フィットする靴が探しやすくなるだけに留まらず、店舗で収集されたデータは今後の製品開発にも影響を与えていくだろう。

データの好循環はどこで生まれるか?

今後、データの価値が広く認識されることで、ハイテクノロジー企業に限らず独自のデータの好循環が生まれていくだろう。

Flicfitのように最新技術によって初めて計測可能になったデータもあれば、活用の余地があるにも関わらず日の目を見ないままのデータがすでに身近なところで蓄積されているかもしれない。

まずは、自社でも店舗へのデータ活用ができるのではないかと、今一度見直してみてほしい。10年後の未来を変える「データの好循環」を生み出す最初の一歩は、そこから始まるのだ。