イギリスは10年以内に現金不要に?“キャッシュレス先進国”に学ぶ、小売店の決済事情

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イギリスは10年以内に現金不要に?“キャッシュレス先進国”に学ぶ、小売店の決済事情

Text : イシダ ユウコ

“キャッシュレス決済の先進国”と聞き、真っ先に中国を連想する人は少なくない。事実、同国ではスマートフォンの普及とともに、支付宝(アリペイ)やWeChat Payなどの決済アプリからQRコードを表示させ、それを読み取ることで決済をする方法が主流になっている。

経済産業省の調査によれば、2015年時点で中国のキャッシュレス決済比率は全決済の60%に及び、世界的に高い数字を記録している。だが、今回注目したいのは、その中国に劣らぬ勢いでキャッシュレス化を推し進めているイギリスの決済事情だ。

加速する英国のキャッシュレス社会

英メディア「Evening Standard.(イブニング・スタンダード)」は、2018年4月12月に公開した記事にて、イギリスが10年以内に完全なキャッシュレス社会になると予測している。

2006年時点で全決済の62%を占めていた現金での支払いは、10年間で40%に低下。さらにこの割合は、2026年ごろに21%まで落ち込む見通しをUK Financeが発表した。

実際、英国の小売店舗では、どれほどキャッシュレス決済に対応しているのだろうか。露店、コンビニ、スーパーやデパートなど、複数の現地店舗に足を運び、その実態を調査した。

以下、筆者が実施した調査の条件である。

<調査条件>
日時:2018 年11月16日〜18日
場所:イギリス・ロンドン
対象: 露店、個人商店(コンビニ)、スーパー、デパート、ファストフード店(全8店舗)
方法:各調査対象に足を運び、店舗がどのような決済方法を採用しているかを確認。15分滞在するなかで利用客がどのような方法で決済を行うかを見る。

ロンドンにおける「キャッシュレス決済」浸透の実態

露店

タワーオブロンドン周辺で出店していたキャラメルピーナッツの露店は、現金のみの対応だった。店主に話を聞いたところ、「2ポンドくらいは誰でも持っているし、大きいお札は基本的に受け付けていないため、今のところ強盗の被害も無い。キャッシュレス決済は検討していない」と話していた。

2件目は、バッキンガム宮殿の近くの露店だ。同店は、 クレジットカードでの支払いに対応していた。筆者がこれまでにヨーロッパで訪れた店舗では、クレジットカードのタッチ決済式(非接触型)を採用しているところが多いが、同店は差し込み口が付いた接触型の機械を使用していた。だが、商品単価が高くないため、現金で支払う人が多いという。

キャッシュレス化が進むイギリスでも、一部では対応化の店舗もあるものの露店での支払いは未だに現金で受け付けているところがほとんどのようだ。

個人商店(コンビニ)

複数のストリートで見かけた生活用品や食料品を販売する個人商店(日本で位置付けるところのコンビニ)にはATMがあり、一部の店舗では外貨両替ができるところもあった。訪れた店舗の全てにおいてクレジットカードが使え、イギリスの交通カード「オイスターカード」の購入及びチャージも可能だった。顧客のなかには現金で支払う者よりも、クレジットカードで支払う人が多いようだった。

スーパー

Tesco(テスコ)

サンドイッチや飲み物などを中心に販売している小規模スーパーだ。設置レジのほとんどはセルフ式であり、その一部はクレジットカードでしか支払いができない。有人レジもあるが、スタッフは常駐しておらず、近くのスタッフまで声をかける必要があるようだった。顧客の多くはクレジットカードで決済していた。

Sainsbury’s local(サインズベリー・ローカル)

ロンドンでも多くの店舗を展開する大規模スーパーの一つ。 設置レジのほとんどはセルフであり、有人レジに常駐のスタッフはいなかった。また同店は、「scan & go」という名の決済ツールを導入しており、顧客は専用のアプリで商品バーコードをスキャンすることで決済できる。日本ではローソンが実施している「ローソンスマホペイ」と同じプロセスであった。

しかし、調査時間内で「scan & go」を利用している顧客は見受けられなかった。店員に話を聞くと「レジが混雑をしている時間帯だと利用者は多いが、混雑時以外はセルフレジを利用する人が大半」だそう。

Waitrose & Partners(ウェイトローズ アンド パートナーズ)

レジは以下の3種類に分かれていた。

  1. ショッピングカートを使う人(購入量が多い人)
  2. カゴのみの人(購入量が少ない人)
  3. セルフレジ(クレジットカード決済のみ対応)

セルフレジの場所が有人レジから少し離れているためか、有人レジに並んでいる顧客のほうが多かった。

また「Quickcheck」という専用端末、もしくは自身のスマートフォンを利用して商品のバーコードを読み込んで決済するシステムを導入していたが、調査時間内に利用者は見当たらなかった。

デパート

Harrods (ハロッズ)

老舗デパート。単価が高いこともあってか、どの店舗でもクレジットカード支払いが当然であった。筆者が滞在する時間内において現金で支払っている顧客は一人も見当たらなかった。

Liberty London (リバティー・ロンドン)

Harrodsに比べると小規模のデパートである。同店もHarrodsと同様、クレジットカードでの決済が浸透しており、調査時間内に現金で支払う顧客はいなかった。

ファストフード店舗

マクドナルド

ロンドンにある2店舗を訪れた。1店舗目は、有人レジ以外にキャッシュカードのみ対応のタッチ式注文パネルが設置してあった。Liverpool street stationにある店舗は、有人レジは設置しておらず、顧客は全員クレジットカードのみ対応のタッチ式パネルで注文をする必要があった。現金払いが一切できないのは、混雑しやすい駅の店舗だからだろう。

英国のキャッシュレス化を推し進めるのは、タッチ式決済のクレジットカード

ロンドンではタッチ式決済のクレジットカードが主流であり、多くの消費者に浸透しているようだった。 また、調査で訪れたほとんどの小売店がセルフレジを導入しており、顧客も抵抗を感じている様子はない。Sainsbury’s localなど一部の店舗では、専用アプリをダウンロードし、自身のスマートフォンでバーコードをスキャンして購入するシステムを導入していたが、目で見た限りはそこまで普及率は高くないようだ。

冒頭で述べたように、イギリスは2026年ごろを目処に現金決済が21%にまで落ち込むとされている。それを後押しするのは、タッチ式決済のクレジットカードと、専用アプリを用いた決済の普及であると、今回の調査から推測できる。

日本では、2018年に経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を発表した。2025年までにキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げ、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしている。

スーパーやデパート、コンビニなど、日本の小売店もセルフレジやキャッシュレス決済のツールを導入するところは増えているはずだが、顧客への浸透率はまだ低いように感じる。

キャッシュレス決済の導入率をあげる前に、まずは「キャッシュレス決済」に対する国民の理解と意識を高めていくことが、日本にとっては先決かもしれない。